蝶野正洋60歳 プロレスラーとしての現在地 街では「“蝶野さん!”から“蝶野さんですか?”に」
■蝶野正洋が50代以降の男性へアドバイス
本書では、主に50歳以降の男性に向けて、リストラや役職定年などで背負っていた肩書がなくなった時に、どう生きていったらいいのかを、自己プロデュースの達人でもある蝶野さんがアドバイスをする一冊となっています。
蝶野さんは、1984年、新日本プロレスに入門し、同期の武藤敬司さんとの試合で同年10月5日にデビューしました。その後、ヒールとして一大ムーブメントを起こした“nWoジャパン”、 “TEAM2000”を結成するなど、“黒のカリスマ”としてプロレス界で活躍しました。今年2月に行われた武藤さんの引退試合では、急きょ武藤さんの最後の対戦相手を務め、話題となりました。
■蝶野「肩書は目標になる」
――本書のテーマでもある“肩書”は、蝶野さんにとってどのような存在だと考えていますか?
肩書は、後からついてくるというか。ほぼ俺がやっている肩書って啓発活動とか、ボランティアですから。まあ、肩書はひとつの目標にはなりますよね。なにかを諦めようとか、もういいかなって時に、肩書がひとつの目標になる。そういったものは使い方だと思いますね。それに押しつぶされるケースもありますし、実際そういうのも自分もあった。
――蝶野さんが押しつぶされたケースとは?
簡単にいうとチャンピオンですね。チャンピオンになったというと、要は団体のトップ、業界のトップ。ということは、業界が繁栄する、しないっていうのが自分にのしかかってくるわけじゃないですか。客入りが悪かったらっていうようなことで。そういうプレッシャーに、最初の20代後半にチャンスをつかんで、俺は失敗しましたよね。
失敗して、逆にその失敗があったんで、リベンジするために30代も続けてた。そういう肩書が重荷になる、それもキャリア、経験だと思うんですよね。失敗も含めて、その経験をいかすというか。俺は成功が先ってほぼないんですよね。高校、中学から全部失敗失敗と。それを取り返すっていうことを諦めずにやってきてる感じですね。
■盟友・武藤敬司の自己プロデュース力
――今回の本の中で蝶野さんが、自己プロデュースがうまい人物として武藤敬司さんの名前を上げていましたが、武藤さんのすごさはどのようなところにあると考えていますか?
みんな一緒だと思いますけど、やっぱりどうしても周りの目を気にする。で、そこが一番大きなプレッシャーにもなるんですけど、そこを気にせず、ある意味無視してとにかく一歩前に出る。リスクはありますよね。だから武藤さんなんかも一歩前に出てることによって、悪口も言われる。プロの興行の世界ですから、客入りが悪かったら「お前が前にでてるから客入んねえだよ」って陰口もたたかれる。
人の評価って、いい評価も悪い評価もあまり気にしていても、自分のやりたいことができない。だからそういう所をある程度早くから武藤さんはシャットダウンしてるというかね。かといって周りの声を全く気にしない人間なのかっていったら、それは俺は逆だと思う。周りは「あいつ聞く耳持たねえな」っていう評価なんだけど、逆で、俺から見ると武藤敬司っていうのはその細かいのも全部聞いて入ってきちゃう。入ってきているところで遮断してる。それを消化しない。まあそういうタイプでしょうね。
■“プロレスラー”蝶野正洋の現在地
――“プロレスラー蝶野正洋”の現在地についてはどうお考えですか?
10年前に終わってますよね。今年、俺も還暦になるんで、還暦のパーティーの準備なんかもしてて、もう10年前で終わってますよね、プロレスの俺は。今年偶然リングに上がるきっかけがありましたけど、俺の中では40代で終わってるという意識はあります。
――明確に引退ということは言わないのですか?
本当はそういう区切りをつけたいんですけど、リングの上でやるべきなのか。過去に何回かセミリタイアだってことを言ってるのよ。(引退のために)場所を、そういうのを設定してやるべきなのか、どうなのかというと、もうレスラーとしてのリングの上での引退をどうのっていうのはたぶん今の段階では俺の中ではない、けど目指してるけどね。
――今後も肩書として“プロレスラー”は使っていくのですか?
どうですかね。ただ、最近はよく街なんかで声を掛けられるときに、「蝶野さん!」じゃなくて「蝶野さんですか?」になるのね。確認をしてくるのよ。昔だったら頭にきて、「なんだこの野郎!」って言っていたかもしれないけど、今は「蝶野さんですか?」ってやっぱりかつてのイメージ、今はおやじになってきて向こうも、もしかしたらあまりにイメージと違ってきてるから、違う人じゃないかっていうような。
それが今は俺の中では面白いというか、良くも悪くも変化してきてると。その変わり方を楽しむというか、60代で20代のピチピチな形を保つのは無理な話で、60歳のおやじのツッパリ方というか、そういうものをどうしようかと、そんな感じですよ。