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“親子げんか”で里親抹消 10年以上育てた息子が突然他人に… 三重・名張市

2024年5月1日 13:39
“親子げんか”で里親抹消 10年以上育てた息子が突然他人に… 三重・名張市
松山さんと二人の息子
三重県名張市に住む79歳の男性が、県を訴えました。会見で涙ながらに語った、その理由とは…。

思わず放ったひと言で突然終わりを迎えた息子たちとの生活

名張市に暮らす松山健さんは、16歳の兄・大樹さん(仮名)と、3歳年下の弟・拓実さん(仮名)の父親です。ただし、実の親子ではありません。松山さん夫婦は里親として、兄弟がまだ幼かった頃に別々の家庭から迎え入れ、妻とともに10年以上育ててきました。

しかし、2人の息子との平穏な生活は突然、終わりを迎えます。きっかけは大樹さんが中学2年生だった一昨年3月。ある朝の出来事でした。

松山さんへの取材によると、大樹さんが少し離れたところにいた拓実さんに、チョコレートを取るよう何度も言いました。20回以上もしつこく繰り返す様子を見かねた健さんが注意すると、2人は口論になりましたが、妻が割って入り事なきを得ました。

反抗期によくある親子げんか…そう思っていた翌日のことです。定期訪問の相談のため児童相談所の職員からかかってきた電話で、健さんは職員に大樹くんを指導してもらおうと「昨日ちょっと言い合いになって、大樹の胸ぐらつかんで1発やっちゃたんですよ」と、実際よりも大げさに説明したのです。

松山健さん(79):
「オーバーに話さないと(職員が)来てくれないと思ったんです。実際は、彼はめちゃくちゃ大きいし、手をつかむこともできなかった」

電話から4日後、事態は思わぬ方向に…。大樹さんを一時保護するために、児童相談所の職員が大樹さんの中学校を訪れたのです。その際、大樹さんは2年ほど前から父に「施設に帰れ」などと言われていたと説明しました。

しかし、後に大樹さんは「僕は里子であることを友達に知られたくなかったのに(児相の職員が訪ねてきたので)友達にばれたらどうしようと不安があり、パニックにおちいっていました。そんな中で言ったことは事実ではない」と、事実とは異なる説明をしてしまったと主張しています。

父の健さんも、暴行や暴言はなかったと必死に説明しようとしましたが、「明くる日一番に僕(児相へ)行ったけど、会わせてくれない、聞く耳ももたない、何度説明しても」といいます。

そして、一時保護から約3週間後。三重県からある通知が届きました。大樹さんと拓実さんを松山さんに預ける「里親委託」が解除されたのです。さらに、里子を受け入れるために必要な「里親登録」も取り消されました。突然の出来事に、妻は10日ほど食べ物が喉を通らず、水も飲めないほど衰弱してしまいました。

県内の児童養護施設で生活することになった大樹さん。当時、施設から松山さん夫婦に宛てた手紙には、切実な思いが綴られていました。

<大樹さんが松山さん夫婦に宛てた手紙>
「俺は松山の子です。お母さんがいつ倒れるんじゃないかっていう心配が頭から離れません。1秒でも早く帰りたいです」

サッカーに打ち込んでいた大樹さんは、プロになることを夢見て、サッカーの強豪校への進学を目指していましたが、施設での生活が続く中、志望校を変えることを余儀なくされたといいます。家庭から引き離され、1年間を棒に振ってしまったのです。

児相と家裁で分かれる判断 13歳の弟は施設から戻れないまま…

親子の縁が絶たれてから約1年たった頃、一筋の光が差し込みました。

家庭裁判所が、松山さん夫婦と大樹さんが養子縁組を結ぶことを許可したのです。その際にまとめられた調査報告書には「(大樹さんが)同居中のエピソードを具体的かつ嬉しそうに述べた。その陳述内容は(大樹さんの)真意が反映されたものと言える」と記されていました。1年の時を経て、ようやく親子での生活がかなったのです。

一方、松山さんが養子縁組後に入手した三重県の弁明書では「(虐待に関して)経験したものでないと語れない具体的なエピソードを話しており(中略)供述には信用性があります」と、松山さんによる心理的虐待があったとして、「明確な根拠に基づいた適法な処分」だと主張。今も、松山さん夫婦の里親登録は取り消されたままです。

そのため、まだ元通りになっていないことがありました。大樹さんと一緒に一時保護された拓実さんは現在13歳。養子縁組を結ぶには親権者の同意が必要な年齢のため、今も施設での生活が続いています。里親登録を取り消された松山さん夫婦は、拓実さんと話すことすらできません。大樹さんは、拓実さんのサッカーのユニホームを部屋に飾り、時折、思い出すように一人でアルバムを眺めているといいます。

離ればなれになってから2年以上がたった、4月30日。松山さん夫婦は、県が事実誤認に基づいて里親登録を取り消した処分は違法だとして、処分を取り消すことなどを求め津地裁に提訴しました。

松山健さん(79):
「(弟・拓実が)帰ってきてない。連れて行かれたまま一言も話せていない。裁判で勝とうとかそういうことよりもまず、弟・拓実を取り戻さないといけない」

しかし、関係者たちの意見は割れています。三重県の担当者は一般論として、「里親制度は社会みんなで子どもを養育しようというもの。必ずしも元の里親に戻さなければならないというわけではない」としています。一方で、自身も里親経験者で元厚労省官僚の藤井康弘さんは、一般論として「児童相談所は杓子定規な判断ではなく、子どもの現在および将来の最善の利益がどこにあるのかを、よく検討した上で判断すべき」としています。

虐待を疑われるような発言をしたことで、「里親」を除されてしまった松山さん夫婦。虐待から子どもを守ることは大前提ですが、難しい判断になりそうです。何が子どものために良いのか、今後の裁判の行方に注目です。

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