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“病児保育”の存続危機 新型コロナで利用者減・補助金減 

2022年1月25日 22:02
“病児保育”の存続危機 新型コロナで利用者減・補助金減 

病気にかかった時に保育園などに通えない子どもを一時的に預かる“病児保育”という施設が全国にある。共働きやひとり親家庭にとっては頼みの綱だが、いま多くの施設が新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされているという。(社会部・野中祐美)

■必要不可欠“病児保育”親たちが直面する社会の現実

病児保育は看護師・保育士が子どもの体調に合わせた保育を行ってくれる場所。子どもは熱を出しても元気なことが多い一方で、容体が急変することもあり、一時的な頼り先としては心強い存在だ。また、1日当たりの基本利用料も平均およそ2000円と負担の少ない金額で利用できるのも特徴。

病気にかからず大人になる子どもは絶対にいない。例えば、1歳児の場合は年間平均12日は病気で保育園を休むと言われている。

勤務先が人手不足だと急に休むことも難しく、ひとり親家庭でパートナーがいない、実家が遠くて頼れる親も近くにいない場合もある。さらに、非正規で働く保護者は、急きょ休むことが解雇につながったり、収入が減ったりする。

本来は、子どもが病気の時には、休める職場や社会であってほしいという声もあるが、そうもいかないのが現実だ。子どもの病状によっては病院通いが頻繁になり、精神的にも追い詰められて仕事を辞めざるを得なかった親もいる。

病児保育を利用する親たちからは、「子どもの具合が悪いのに自分で面倒をみないで、他の人に子どもを預けていいものかという気持ちはあったんですけど、保育士さんも実際預けてみたらいい人ばっかりだった」「子どもは急に体調が悪くなったりするので、病児保育施設がないと仕事は続けられない」「病児保育は不可欠といって過言ではない」という声が聞かれた。

さらに、病児保育はいざというときに頼れる「お守り代わりの存在」だと話す親もいた。

■病児保育と利用者を手軽にマッチング

全国に約3300ある病児保育施設。実はまだその存在を知らない人も多く、利用率が低い施設もたくさんある。理由のひとつは「予約から利用までの手続の煩雑さ」だ。朝の忙しい時間帯に施設につながるまで電話をかけ続けたり、利用申し込みや子どもの状態を伝える書類を、多いと5枚も記入したりしなければならない。

こうした課題をクリアしようと登場したのが、利用者と施設をマッチングする検索サービスだ。地図上で利用したい施設の空き状況を確認し、予約することができるうえ、書類を書く手間も省けるようになっている。

このシステムを考えたのは現役の産婦人科医でもある園田正樹医師。日々接する母親たちの困りごとをもとに生まれたサービスだという。

■コロナ禍で利用者・補助金減存続危機に

しかしいま、新型コロナの影響で感染に対する親の不安感などから利用者が激減し、苦境に立たされている施設が全国にあるという。

神奈川県大和市の「十六山病児保育室Bambini」では、2019年度、年間453人の利用があり堅調な利用者数の伸びを想定していた。ところが、新型コロナの影響で利用者がこの2年、ともに2019年度と比較し9割ほど減少したのだ。

もともと運営費の3分の1は国や自治体からの補助金で賄っており、その補助金は利用者数に応じて算定されている。昨年度に国の特例措置で以前の利用者数に応じた950万円ほどが支給されるなどしたが、今年度も利用者数は戻らず、見込み額からは1000万円以上の減額に。

このまま利用者数の回復がなければ、年々赤字幅が少なくなるという見込みが崩れ、残り3分の2の運営費も寄付金で賄ってきた実情もあり、存続が難しいという。

一方で、潜在的なニーズをうかがわせる動きも。コロナ禍にもかかわらず2年間で300人近い利用登録の希望者がいたというのだ。

■“社会のセーフティーネット”全国約6割が赤字運営

先月、全国病児保育協議会は利用者数にかかわらず、安定した運営が行えるよう、保育士の待遇改善も含めた制度改定の要望書を厚生労働省に提出した。協議会の調査では全国約6割の施設が赤字で運営を続けている。

病児保育は育児での親の孤立を防ぎ、ひいては虐待防止の役割を持つ“社会のセーフティーネット”とも言われている。ボランティアや芸術活動など仕事だけではない親の社会活動をより可能にする存在でもある。

「こども家庭庁」創設の議論が続く中、子どもたちの健全な成長を支える病児保育の存続が求められている。