想像を実現する創造力 育むのはデジタル4
NPO法人「CANVAS」理事長の石戸奈々子氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。4つ目のキーワードは「いつもの質問ですが…AIはヒトの仕事を奪うのか?」。AIに対する持論や、デジタルが子どもたちにもたらす可能性について語る。
■AIは本当に“脅威”なのか?
――AI(=人工知能)が雇用を奪う脅威とよく言われますが、いかがでしょうか。
私は、保護者とか学校の先生と会う機会が多いです。そうすると、AIっていうのが必ずしも良いイメージだけで伝わっているわけではないんです。
ただそれは、産業革命のときも同じだったと思うんです。人は、機械に(仕事を)みんな取られちゃうんじゃないかと思って恐れおののいて、機械を壊す打ち壊し運動とかしたわけですよね。
だけど、それから時がたって、我々の生活が今どうなっているかを考えてみると、圧倒的に便利で、圧倒的に豊かになったんじゃないかなと思うんですね。それとAIというのは、結局、同じなんじゃないかなと思っています。
本当にデジタルは、子どもたちにとっては新しく何かを創り出すツールであって、子どもたちを見ているとその可能性を本当に感じるんですね。
どんな時代も新しい技術というのは、人間の欲望の中から生まれて、ある種、人間の力を拡張してくれるツールとして開発されてきたわけなんですけども、子どもたちは新しいITのツールを使って世界中の知識にアクセスしたり、自分のアイデアを世界中の人に発信したり、もしくは本当に国境を越えて世界中の人とコラボレーションする、共同する子どもたちも出ていますし、自分のアイデアを形にしている子たちも出てきていますし、自分の力を無限大に拡張するツールとして使いこなしている子どもたちがたくさん出てきています。
この子たちが新しい仕事や世界を作っていくんだろうなと思うんですね。今、本当に考えてみても、世界を席巻するIT企業も、ほとんどがこの数十年で生まれたものかなと思うと、私たち大人ができることっていうのは、子どもたちが未来のデジタル社会を築いていけるように、フルスイングできるように、学びの環境やツールを提供してあげることかなと思いながら日々活動しています。
■ITで格差是正
――確かに環境ということを考えると、デジタルを使えば、生まれた所や国やそういった状況が必ずしも整ってなくても学ぶことができますよね。
そうですね。「ITを子どもたちに」というのは、ある種、格差是正にもつながると思っています。私はMIT(=マサチューセッツ工科大学)のメディアラボというところにいたんですが、その当時、“100ドルパソコンプロジェクト”っていうのが行われていたんですね。
それは世界中の発展途上国の子どもたちに、ネットワークにつながった100ドルのパソコンを配るというものだったんです。どういうことかというと、学校にも通えない、学校も建てられなくて教科書もなくて先生もいない…そんな地域の子どもたちにネットワークにつながったパソコンを提供すれば、子どもたちが学びたい気持ちがあれば、いくらでも学ぶことができる。ある種、学習への最もの近道なんだという考え方で“100ドルパソコンプロジェクト”は行われていました。
100ドルのパソコンを作る技術的なチャレンジでありながらも、教育改革のチャレンジでもあったプロジェクトなんですけども、基本的には全ての子どもたちに、平等に学ぶ機会を提供できるというところもITの良さなんじゃないかなと思います。