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日米関税協議 交渉の見通しは…元TPP首席交渉官・大江博氏に聞く

2025年5月12日 21:19
日米関税協議 交渉の見通しは…元TPP首席交渉官・大江博氏に聞く

日米の関税協議について元外交官で、10年前、モノやサービスなどの自由貿易化をめざした国際協定「TPP」で、農業分野についてアメリカ側との交渉を仕切った大江博氏に改めて交渉の見通しを聞いた。

――2回目の日米協議についてどう評価している?

大江博・元TPP首席交渉官
・交渉の中身はわからないが、きちんとスピーディーに進んでおり決裂に向かった感はないので、最悪の事態になっているわけではないのだろう。このまま続けば、世界中の経済がめちゃくちゃになる。スピーディーに着地点をみつけなくてはならない。今回のような交渉は前例がない。前例を参考にすることは意味がないと思う。

――協議の見通しをどうみている?

大江博・元TPP首席交渉官
・米英が大筋合意したことは歓迎すべきこと。このまま続けば全員が「敗者になるゲーム」、少しでも動き出したことは歓迎すべきだ。アメリカは、自動車や鉄鋼、アルミなどへの品目関税と相互関税は一緒に協議しないとしていたが、米英の大筋合意には自動車なども入っていた。一概に米英協議と一緒にはできないが、前例ができたことは日本にとってはプラスだととらえられるだろう。ただ日本は関税をゼロにすることを求めているが、イギリスでも10%はのこった。日本だけ例外扱いになるのは難しいのではないか。

――日本はどのように交渉していけばいいのか?

大江博・元TPP首席交渉官
・交渉は、カードを出すタイミングが重要だ。早くてもダメだし遅くてもダメ。日本は傾向として最後に譲歩して傷が大きくなることが多い。どのタイミングでどのようなカードをだせるのか、センスある判断ができるかどうかが重要になる。

・交渉は長丁場になればタフでチキンゲームになるが、今回は短期決戦。そもそも今回のトランプ関税は不合理であり、そのために譲歩する必要もあせる必要もないが、日本が関税をゼロにすることにこだわりすぎて、その間に、他国が大筋合意して最後まで日本が残されたら、そこからの交渉は厳しくなる。

・一般的に交渉では、自動車でここまでさげるから、農産品はここまでゆずるというように、それぞれのカードをリンクさせることはない。双方が、お互いのカードをみて、ここが決着点だと判断する。もし、自動車も関税ゼロ、農産品もゼロ回答であれば本気で交渉をする気があるのかと相手に印象を与えることになる。

・自動車でも農産品でも、日本は伸びしろ10%を残した状態で「これが日本ができる最大限だ」とカードを見せ、交渉を進めていくことが必要だ。

・コメの価格が高止まりしており関税がかかってでも海外米が安く入ってくる状況だ。コメの輸入を拡大しても日本にとって大きな痛手にはならず、アメリカにとっても日本の聖域をこじあけたとアピールになるウィンウィンのカードだ。大豆の輸入拡大も、米中がもめている今であれば、アメリカの中国向け大豆を受け入れるという恩を売ることで交渉カードになりうるが、これも米中がもめている間だけの有効カードとも言える。交渉の相場観、タイミングを総合的に判断することが大切だ。

最終更新日:2025年5月12日 22:01