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ワシントンで展示、震災後の「手書き新聞」

2011年6月29日 16:41
ワシントンで展示、震災後の「手書き新聞」

 東日本大震災後、手書きで発行された宮城県の新聞が、ワシントン市内の博物館で展示され、人々の高い関心を呼んでいる。その様子をワシントン支局・平野亜由子記者が取材した。

 ワシントン市内にあるニュース専門の博物館「ニュージアム」は、“報道の自由”の大切さを伝えようと、2008年にオープンし、今では年間100万人近くが訪れる人気スポットだ。ここではニュースに関するさまざまな資料を見ることができるが、その一角に、東日本大震災直後に、手書きで発行された「石巻日日(ひび)新聞」が展示されている。

 3月11日の東日本大震災後、宮城県の地域紙を発行する石巻日日新聞社では、浸水と停電の影響で輪転機(印刷機)が使えなくなった。しかし、記者たちは、震災翌日の12日から6日間にわたり、毎日6部、紙に油性ペンで記事を書き、新聞の発行を続けた。完成した壁新聞は、周辺地域の避難所やコンビニエンスストアなど、計6か所に掲示され、被災した人たちの貴重な情報源となった。

 この取り組みを3月22日付けの有力紙・ワシントンポストが取り上げると、ニュージアムの職員であるシャロン・サヒードさんの目に止まることになった。彼女は、この記事について、「通勤中の電車で新聞を読み、いつもは読み終わったら捨ててしまうのですが、この記事を読んだ時は、記事を切り取って同僚に渡し、『この人たちに連絡をとらなくてはならない』と話したんです」と、当時の様子を語る。

 サヒードさんの提案に、ほかの職員たちも賛同した。さっそく、日本語のできるブライアン・ニシムラ・リーさんが、石巻日日新聞社に紙面の提供を依頼した。リーさんは、「(ワシントンポストの記事を読んで)非常に感銘を受けて、石巻日日新聞社のサイトを調べて、そこからメールを送り、どうしてもこの記事の内容を見たいと問い合わせました」と、当時の状況を語る。このニュージアムの依頼に対して、石巻日日新聞社は快諾。4月の下旬に手書きで発行された6枚の壁新聞が届き、5月2日から一般公開された。リーさんは、初めて紙面を見たときの感想について、「思いのある感じはしたし、内容も一生懸命手書きで書かれていることがうかがえた。また、住民の方を大切に思っておられ、内容も明るく希望の持てる内容をたくさん書いておられるのが非常に印象的でした」と、語る。

 公開開始から約2か月。石巻日日新聞は、ニュージアムの中でも高い関心を集めている展示のひとつになっていると言う。取材当日も、日本語を読めないはずのアメリカ人観光客が、熱心に新聞に見入る姿を見ることができた。その感想を尋ねてみると、「こういった新聞が作られたことは、何が起きているかを人々が理解するのにとても役立つと思う」「この新聞は素晴らしい。ここに書かれているのは、人々に影響力を与えようとするニュースではなく、人々に勇気を与えるニュース。私はとても好き」と、新聞を高く評価する意見が多かった。

 震災後の極限状態の中、記者たちが手書きで発行し続けた壁新聞。ニュージアムでは、その思いをできるだけ多くの人に伝えたいとして、少なくとも2011年末までは、展示を続けることにしているという。