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遊び心あふれるパリのオフィス街アート

2011年9月7日 15:59
遊び心あふれるパリのオフィス街アート

 今、パリのオフィス街では、かわいいアートがちょっとしたブームになっている。そのもようをパリ支局・野尻仁記者が取材した。

 今年の夏、パリは雨が多く、気温の低い日が続いていた。しかし、8月半ばになってようやく夏らしい天気が戻り、いまも多くの観光客でにぎわっている。そんな中、パリ郊外のオフィス街では、ビルの窓のあちらこちらにカラフルな絵が描かれていた。そのほとんどが、おなじみのゲームやアニメのキャラクターだ。まわりのほかのビルも、まるで競い合うかのように同じような絵が描かれている。通行人の少女は「子供のオモチャが置いてあるんだと思ってたわ」と、語ってくれた。

 たくさんの絵が並んでいるビルを訪ねてみた。ここは、フランス最大手のゲームソフト会社だ。中から見ると、それぞれの絵は「付箋(ふせん)」や色画用紙を窓に並べてはりつけて作られている。このアートを最初に始めたのは、この会社の社員、エミリーさん。5月ごろ、近所で“スペースインベーダー”の絵を見かけ、向かいの銀行で働く人たちに見せようと窓にはってみたそうだ。すると次の日、銀行の窓にも同じようにキャラクターが描かれていたという。エミリーさんは「びっくりしたわ。向かいは銀行だし、銀行員は堅いというイメージがあったから」と、驚いたそうだ。それ以来、互いに競うように作品の数を増やし、エミリーさんの会社の窓には、現在60もの作品が並んでいる。会社も、彼女のアイデアを「面白い」と応援してくれた。エミリーさんは、昼休みや仕事が終わった後を利用して、同僚たちと一緒に新しい作品を作っている。エミリーさんの同僚は「子供のころにゲームで遊んでいたことを思い出しながら作っています。日本製のゲームでした」と、楽しんでいるようすだ。私たちは、エミリーさんに1つ作品を作ってくれるようお願いした。エミリーさんはモチーフの“ダベア(日本テレビのキャラクター)”を見て「いいわね。かわいい顔をしているから断れないわ」と、快く引き受けてくれた。

 パリの郊外には、会社のビルの窓を紙のアートで飾りつけたオフィス街がすでに何か所もある。デザインは、どんどん凝ったものに進化していて完成度も高くなっている。エミリーさんたちの会社で新たなプロジェクトが始まった。2日間で巨大な絵を完成させるというのだ。「みんな、うまくできている?(印の)点が見えますか?」と、エミリーさんが同僚に声をかける。用意したのは、4センチ四方の色画用紙。色の種類は、15色もある。この紙を、8000枚も使って高さ10メートルの巨大な絵を完成させようというのである。プロジェクトリーダーのファブリースさんは「こんなに多人数で大きな作品を作るプロジェクトは初めてです。エミリーの部署から多くの仲間が参加してくれました」と、語ってくれた。そして、エミリーさんは「順調だけど、思ったより時間がかかりそうね。でも大丈夫でしょう」と、このプロジェクトの見通しを述べてくれた。少しだけ参加させてもらったが、全体のどの部分をはっているか全然わからない。図面を確認しながら、色の異なる紙を1枚ずつはっていく細かい作業。少しでも場所を間違うと、他のフロアと絵がずれてしまうのだ。

 次の日の夕方、会社を訪ねた。窓の絵は大きいので遠くからでも良く見える。ビルの3階にまたがる巨大な作品。ビルの前を通りがかる人たちも、思わず絵を見上げていた。「素晴らしい出来だと思います。ここまでできるとは思っていませんでした」とエミリーさんも予想以上の出来栄えにうれしそうだ。そして、私たちがお願いした“ダベア”も完成していた。

 芸術の都パリでは、殺風景になりがちなオフィス街も、カラフルなデザインと遊び心であふれている。