フランス・パリ 日本人のイラストが街中に

年間3千万人の観光客が訪れるパリ。この夏、各国からのゲストたちをあるイラストが迎えている。パリの広告塔を占拠しているのはいかにもパリらしいイラストだが、描いているのは“カナコ”さんという日本人だ。
東京出身のイラストレーター・九重加奈子さんは、2005年にパリにやってきた。今や100万人が登録するパリ市民のためのメールマガジンでイラストを一手に手がけ、流行や芸術にうるさいパリジャンたちにも一目置かれている。街では「とてもきれい。パリをよく表現している。とてもヨーロピアンなスタイル。全く日本風ではないね」と話す男性もいた。九重さんは8年前に日本を離れるまで、学生時代から参考書の挿絵などを描いてきた。経験を重ねるにつれ、このままでよいのかという思いが募ってきたと言う。パリに移住したきっかけを九重さんはこう話す。
「楽しかったけど、実用的なイラストは“説明するイラスト”で“空いているスペースを埋める”ものだった。メールでイラストを納品できるので、どこに住んでいても仕事を続けられる。だったら、どこかに行ってみたいと思った」
九重さんは30歳を機に心機一転、縁もゆかりもないパリに飛び込む。そして、アパートのテラスから目に入ったパリジャンたちの姿を描き始めた。以来、街で目にするパリジャンたちの姿を風刺と愛情を込めて描き続け、5年前からパリジャンに人気のウェブサイトのイラストを任されるようになった。人生の転機だった。パリ情報ウェブサイト「My Little Paris」のアマンディーヌ・ペショダ編集長は「加奈子の絵を初めて見たのは6年前。すぐに一目ぼれした。とても詩的でナイーブだと思った」と語る。さらに、パリの街は九重さんに変化をもたらした。九重さんは「絵も変わりました。“かっぷくの良いおばちゃん”の絵とか、以前はおしゃれ度が低かったかも。日本人女性は“かわいい”を目指すが、パリジェンヌは“かわいい”を良しとしない。なるべくぴりっとした感じが出るよう気を付けている」と話してくれた。
8月、パリ市は初めて“青空展示会”と称して街の広告塔に久重さんのイラストを掲示することにした。シャンゼリゼ通りなどの有名観光地にある1000基の広告塔を、今、九重さんのイラストがまさに占拠している。九重さんが街角で目にしたいかにもパリジャンらしい習慣や行動など、日常の一コマをこの街で培った独特のタッチで描き出している。九重さんは「信じられないような気持ち。パリをもっと描きたいし―“芸術”じゃなくて“イラスト”、何かあってそれをわかりやすくする絵なので、おもしろい出会いがまたあるといいなと思う」と語る。
九重さんのイラストが満載のウェブサイトは、この秋、日本語版がスタートする予定だ。九重さんの絵を目にする機会も増えそうだ。