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アルゼンチン 日本との意外な“つながり”

2013年10月18日 17:12
アルゼンチン 日本との意外な“つながり”

 2020年・東京オリンピック開催決定の会場にもなったアルゼンチン。日本から最も遠い国のひとつだが、実は、意外な“つながり”があった。ニューヨーク支局・柳沢高志記者が取材した。

 9月7日、日本中が歓喜に沸いた2020年・東京オリンピックの決定。この前日、ブエノスアイレスのある学校を日本人アスリートらが訪問していた。生徒からの「オリンピック選手はモテるんですか?」との質問に「たまにモテます。でも日本人で一番モテるアスリートは入江選手です」と、フェンシングの千田健太選手が笑顔で答える。彼らが訪れたのは、学校に通う約550人の生徒のうち3割が日系人という小中学校だ。教室に飾られた絵を見ながら、水泳の入江陵介選手は生徒たちにこう語りかけた。

 「絵とかメッセージを読ませていただいてうれしく思います。いよいよ明日、2020年のオリンピック開催都市が決まるので、東京に決まったら、みなさん東京に遊びに来てください」

 ブエノスアイレスに住む日系人たちも、東京オリンピックを後押しする声援を送っていたのだ。

 日本から見て、地球の真裏にあたるアルゼンチン。市内には、“沖縄県人連合会会館”という建物があった。中に入ると体育館になっていて、手前で空手、奥では柔道の稽古が行われている。さらに、地下の駐車場では相撲の稽古まで行われていた。2階には赤提灯(ちょうちん)がさげられた場所があった。地元の人たちに大人気の沖縄料理店だという。看板メニューはソーキそばだ。

 実は、アルゼンチンには19世紀の終わりから多くの日本人が移民として渡ってきた。この施設は、日本人移民の8割を占める沖縄からの移民が中心となって設立されたもので、日本の文化をアルゼンチンに広く普及する活動を行っている。柔道の稽古をしていたアルゼンチン人の少女に、柔道がどこの国のスポーツか尋ねてみると、「日本です。柔道のオリンピック選手になることが私の夢です」と答えてくれた。こうした活動のかいもあり、アルゼンチンでは、柔道や空手はサッカーに並んで子供たちに人気のスポーツなのだ。

 さらに、日本とアルゼンチンには意外な“つながり”もあった。あるものを日本から輸出しているという大手商社・丸紅アルゼンチンの脊山社長が案内してくれたのは、なんと地下鉄。1913年に完成したので、今年でちょうど100周年になるという。ホームに降りてみると、なにやら見覚えのある車両が目の前にあらわれた。「実はこれ、地下鉄丸ノ内線を走っていた電車なんですよ」と、脊山社長が教えてくれた。車両は落書きだらけになっている。1957年から営団500形として使われ、まさに東京オリンピックの時に走っていた電車だという。

 一体、なぜ丸ノ内線がブエノスアイレスを走っているのだろうか?脊山社長はこう語る。

 「ブエノスアイレスの地下鉄がモデルで丸ノ内線を作ったので、軌道・線路の幅がブエノスアイレスと日本ではちょうど同じなんですよ」

 日本の地下鉄は1927年に開通したが、当時、近代化が進んでいたブエノスアイレスの地下鉄をモデルに作られたという。しかし、近年になってブエノスアイレスで中古車両の需要が高まったことから、日本で廃車寸前だった丸ノ内線を商社が輸出したのだ。乗務員室の中には日本語の表示があったが、乗務員はまったくわからないという。つり革、そしてイスも当時のままだ。乗客に話を聞いてみると「私は毎日通勤で使っているけど、乗り心地はいいですよ。日本の地下鉄みたいに時間通りならもっといいけど」と答えてくれた。

 日本の車両は乗り心地が良く、故障も少ないと評判だということで、これまで中古車両の輸出は1100両以上にも上っている。日本とアルゼンチン。距離を超えた深いつながりがそこにはあった。