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トランプ神話の実態は…側近語る24年戦略

2021年12月31日 17:00

新型コロナウイルスの感染再拡大やインフレの中、支持率低下に苦しむバイデン政権。2022年11月の中間選挙でも苦戦が予想されている。こうした中、活動を活発化させているトランプ前大統領。側近が明かす中間選挙、さらにその先の2024年大統領選に向けた戦略とは。
(NNNワシントン支局 渡邊翔)

■支持者の変わらぬ熱狂「2020年は不正選挙」が原動力

2021年12月19日。南部テキサス州ダラスのアリーナに、数千人のトランプ支持者が集まった。トランプ氏による、「ヒストリー・ツアー」と題したトークイベントだ。大歓声で迎えられたトランプ氏は、冒頭からアクセル全開。

「ガソリン価格はさらに上がっている。バイデンは石油の備蓄放出を決めたが、あんなことをしてはいけない」

「ワクチンの義務化はダメだ。強制はできない。ワクチンも治療薬もあるのに、ここまで感染が拡大している。バイデンはもう大統領を辞めるんじゃないか」

バイデン政権のあらゆる政策を批判し、自らの政権の成果をアピールするトランプ氏。20年の大統領選、さらに翌年1月6日の議事堂占拠事件についても、自らの正当性を主張した。

「1月6日に起きたのは、不正選挙に対する抗議行動だ。暴動ではない。群衆の中には多くの扇動者がいた」

「事件が起きた理由として調査すべきは、その原因である不正選挙だ」

トランプ陣営が主張する「不正選挙」。しかしAP通信は21年12月に調査結果を公表し、トランプ陣営が法廷闘争を試みた6つの激戦州で、実際に不正票と考えられるのは「475票未満」で、仮に不正が認められたとしても、「選挙結果を覆すことはできなかった」と結論づけている。

それでも、集会に参加したトランプ支持者は「選挙は盗まれた」と口をそろえ、「24年は大統領に返り咲いてほしい」と期待感を口にする。「不正選挙で、自分たちの意見が正当に反映されなかった」との思いが、トランプ支持者を24年の「リベンジ」に駆り立てている。

「20年のことは絶対に忘れてはいけないし、22年(の中間選挙)には素晴らしい結果を出さないといけない。私はアメリカを再び、再び偉大にするために戻ってくる」

イベントの随所で、24年大統領選への出馬に意欲を見せたトランプ氏。ペンス前副大統領、デサントス・フロリダ州知事など、共和党内で「24年の有力候補」とされる政治家たちも、トランプ氏の動向を見守る状況が続いている。

■中間選挙で反撃うかがう共和党 焦点は「トランプ氏との距離感」

こうした中、22年11月の中間選挙では、バイデン政権と民主党の苦戦が予想されている。アメリカでは歴代、中間選挙で政権与党に厳しい結果が出ることが多い上に、21年夏のアフガン撤退以降の失速で、バイデン大統領の支持率は歴代最低レベル(43%=ギャラップ社・12月)に沈んでいる。現状、下院では民主党が過半数を失うとの見方が強い。

一方、共和党にとっても、この中間選挙では「トランプ氏との距離感」が課題になる。すでに21年の時点で、トランプ氏は現職ではない候補者20人以上への支持を表明(FiveThirtyEight調べ、22年州知事選候補者も含む)。共和党内で衰えない影響力をアピールする戦略が透けて見える。

ただ、中間選挙や大統領選のカギを握る無党派層からの「嫌悪感」は根強い。有力政治サイト・ポリティコの世論調査(21年12月)では、トランプ氏に「24年大統領選に出てほしくない」と思う無党派層の割合は59%に達した。

そんな中、中間選挙の激戦区での戦い方のモデルケースとされているのが、21年11月に行われたバージニア州知事選だ。勝利した共和党のヤンキン氏は、予備選でトランプ氏の支持を取り付けたが、本選挙では「トランプ隠し」の選挙戦を展開。無党派層の支持を得ることに成功した。

あるアメリカ政府関係者は、激戦区などで「トランプ氏を前面に出さない方が、共和党の獲得議席は増えると思う」と分析する。

■トランプ側近が語る2024年へ向けた戦略

前に出すぎることへの警戒感も根強いトランプ氏。本人は中間選挙、さらに24年の大統領選に向けて、どのような戦略を描いているのだろうか。元顧問で、現在も毎週のように連絡を取り合うという側近、ジェイソン・ミラー氏(GETTR社CEO)に話を聞いた。

ミラー氏は、22年のトランプ氏は、全米で中間選挙の候補者応援に飛び回るとした上で、「重要なのは、『トランプ』という名前が投票用紙にない中間選挙でも、トランプ支持者がしっかり投票するようにすることだ。それによって、共和党が勝てば、24年に向けて有利になる」と指摘する。

21年11月にトランプ陣営が行った、前回大統領選で敗れた5つの激戦州の世論調査では、いずれもトランプ氏の支持率がバイデン氏を上回る結果が出ている(ポリティコ)。中間選挙でも、こうした激戦州を中心に応援に入り、支持層を固めていくことが予想される。

一方で、バージニア州知事選のように、「トランプ隠し」の戦略を取る候補をどう見ているのか。

ミラー氏は、「戦略は州によって異なる」とした上で、「バージニア州は民主党優位の州で、ヤンキンは、トランプ支持者と無党派層、双方の支持を得る必要があった。ただ、トランプ氏は見えないところで、トランプ支持者がしっかりと投票に行くように取り組んでいた」と明かした。

トランプ氏の24年大統領選への出馬表明について、ミラー氏は「22年末か、23年初めまではしないだろう」と語った。アメリカの選挙法上、早めに出馬を表明すると、中間選挙で候補者の応援が十分にできなくなることが理由だという。

さらに、「今後1年や1年半の間に、何が起きるかわからないという要素もある。医者が健康面で出馬を止めるかもしれない」とも述べ、ギリギリまで判断を先延ばしする可能性も示唆した。一方で、トランプ氏の出馬をめぐっては、「最終的には出馬しない(ボルトン元大統領補佐官)」との見方もある。

■岩盤支持層から影響力広がるか 試金石の中間選挙

こうした中、トランプ氏は議事堂占拠事件からちょうど1年となる22年1月6日に会見を行うと表明。不正選挙に抗議の声を上げない身内の共和党穏健派を「民主党の急進左派よりも悪い」と批判した。節目の日にあえて会見し、支持者や党内をさらに掌握したい狙いが見え隠れする。

ただ、本人や一族企業をめぐる捜査、さらに議事堂占拠事件をめぐる調査も続き、足元のリスクも小さくはない。「岩盤支持層」を超えた広範な支持を集めることができるのか。中間選挙は、”トランプ神話”の実態を見極める試金石となる。


写真:Twitter @BillOReilly