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安保理は機能不全から脱することができるか

2013年1月4日 3:40

 「国連は今、悩み続けている」。2012年の暮れ、国際社会の平和と安全を守ることを任務とする国連安全保障理事会の関係者は、NNNの取材に対してこう漏らした。

 確かに、2012年ほど、安保理の限界が声高に批判された年もなかっただろう。拒否権を持つ常任理事国の意見の不一致。そして、その度に、国際社会として一枚岩の対応に出られないという機能不全。その象徴がシリア問題だった。

 内戦の激化により死者が4万人を超えたともいわれるシリア問題で、この1年、安保理は何ら有効な対応策を打ち出すことができなかった。アサド政権への制裁を求める安保理決議案は、3度にわたってロシアと中国の拒否権で廃案となった。「欧米」対「中露」で分裂する安保理に、孤立無援となった特使のアナン前国連事務総長は、任命からわずか半年で、安保理への批判を口にして調停役から自ら退いた。

 また、シリアに派遣された非武装の停戦監視団も、数か月間の活動で撤退を余儀なくされた。そもそも、そこには監視するべき「停戦」などなかったからだ。アサド政権は数度にわたって停戦を受け入れるかのような姿勢を見せたが、結局、戦闘がやむことはなかった。

 こうした事態に安保理が対応できなかった最大の理由。それは国際社会の結束の欠如だ。アサド政権に対する圧力の是非、また、国際社会はどこまで介入するべきか、こうした点で安保理は「欧米」対「中露」で真っ二つに割れ、結局、内戦収束に向けた道筋をつけることはできなかった。

 実はこうした意見の対立により、安保理が実効性のある対応を打ち出せないことは新しい現象ではない。冷戦終結後の20年余り、国連は、各地で顕在化した民族対立・国内紛争にどのような対応するか試行錯誤を続けてきたが、答えは出せていない。

 それは国連設立の理念に起因する。そもそも、国連という組織は、独立した国家の集合体であり、それぞれの国の主権は侵してはならないという前提のもと設立された組織だ。当初は、国内の紛争に介入することは想定されていなかった。国連の憲法に当たる国連憲章には、シリア問題のような国内紛争にどのように対応するか規定はない。それどころか、その2条7項には国内問題には、介入しないとの大原則が明記されている。

 ソマリア、ルワンダ、旧ユーゴで市民の命を守れないという「失敗」を重ねてきた国連。ようやく2005年に、自国民を保護できない国家に対して国際社会が介入する「保護する責任」について国連総会で一応の概念の合意には至ったが、いまだに国際慣習法となるほどの確固たる規範にはなっていない。

 また、「保護する責任」が想定しているのは、一国内での「民族浄化」や「市民の大量虐殺」といった事態であって、「国内紛争」ではない。このため、4万人もの死者が出ているとされるシリアの状況でさえ、国際社会が「保護するべき責任」の概念を用いて介入すべきか、安保理内でも否定的な見方が多数である。

 さらに、意思決定の主導権を握る大国の思惑も影響している。ロシアや中国にとっては、一国の国内紛争に国際社会が介入することは、自国の民族問題を触発しかねず、許容できない事態だ。政権崩壊などにつながる可能性のある欧米主導の介入には、容易に賛同することはできない。

 一方、もう一つの大国・アメリカにとっても、イラクやアフガニスタンのように泥沼化しかねないシリア問題にどこまで介入すべきか迷いもあるという。国際社会において、強制力を持ち、問題解決に向けた圧力をかけられる機関は、安保理以外に存在しないにもかかわらず、国連は今、その設立の理念や大国の思惑、利害関係などにより、その手足を縛られかねない状態にあるのだ。

 安保理関係者は、この1年を振り返り、「2012年に安保理は扱っている紛争を一つも解決することができなかった」と率直に認めた。北朝鮮のミサイル問題をめぐっても、安保理は決議違反となる2度の発射を食い止めることができなかった。2012年12月に強行された「ミサイル発射」について、北朝鮮に対してさらなる制裁を科すか、今も米中の駆け引きは続いている。

 こうした安保理の機能不全が指摘される度に浮上するのが、国連の安保理改革という課題だ。国連では、加盟国の増加や、意思決定プロセスの見直しを求める声を受け、90年代から安保理の参加国の拡大や拒否権の扱いなどを含めた改革案が議論されているが、進展は見られない。

 日本政府関係者も「安保理改革の必要性は高まっており、日本としても力を入れていく」と、悲願の安保理常任理事国入りへ向け、息巻いているが、各国の思惑は一致せず、実現にはハードルがまだまだ高いのが現状だ。

 多くの犠牲者を出しながらも、対応を決められなかった国連安保理の限界。世界の平和と安全の維持という本来の責任を果たすため、各国の都合を乗り越え足並みをそろえることができるのか、安保理を率いる大国に課せられた課題は大きい。