学長は杜甫? 公式ホームページに校章まで… 架空の“名門大学”に中国政府も反応

中国のインターネット上に、受験生たちが勝手につくり上げた架空の“名門大学”が登場し、大きな話題となっています。その反響ぶりに中国政府もコメント。背景には、不条理な受験制度への不満や、就職難による将来不安も。(NNN中国総局 森本隼裕)
■受験生が作った架空の大学に反響
6月末、中国のネット空間に突如現れた「山河大学」。立派にみえる“公式ホームページ”には、それらしい校章もあしらわれ、学部紹介や生徒募集情報なども記載されています。
一方で、こんな注意書きも。
「真に受けないでください。山河大学はまだ仮想状態です」
事の発端は、多くの受験生が集まるSNSのグループ。中国東部にある山東、山西、河北、河南の4省に「新しい名門大学をつくるべきだ」との声が上がると、多くの人がこれに共感・賛同しました。
グループでのやりとりが熱を帯び始めると、一気にSNSで拡散。ネット上には、何者かが作った「山河大学」のホームページのほか、“入学通知書”や“校訓”なども次々に登場しました。“学長”には唐代の詩人・杜甫(河南省出身)が起用されるなど、ユニークさも垣間見えます。
「山河大学」は瞬く間にSNSのホットワードとなり、中国国営メディアも取り上げるなど、大きな反響を呼んでいます。
■全く平等ではない中国の受験制度
なぜ、ここまでの騒ぎになっているのでしょうか。背景には、中国独自の受験制度にある「地域格差」への不満もあるようです。
中国の大学受験は「高考(ガオカオ)」とよばれる統一試験を受け、その点数に応じて志望校を選びます。ただし、成績が良ければ必ずしも名門大学に入れるわけではありません。実は、受験生の戸籍によって、異なる定員(枠)や合格ラインが存在するのです。
多くの大学では、地元の受験生が“優遇”されます。簡単に例えるなら、北京の大学は北京の学生の入学枠を多めに設け、それ以外の地方の学生の入学枠を少なくしているのです。
すると例えば、北京の受験生Aくんと山東省の受験生Bくんが「高考」で同じ点数をとっても、北京にある名門大学の場合、"Aくんは入れるのにBくんは入れない"、というケースが起こりえます。最初から合格ラインが違うので、仮にBくんがAくんより良い点数をとっても、Bくんは入れないことだってあるのです。
人口の移動を防ぐためなのか、この古くからある不公平な制度の正確な理由は不明です。いずれにせよ、名門大学は大都市と地方で数に大きな差があるため、人生をかけて挑む受験生は、スタート地点から異なる条件で走り出すことになります。
■就職難への不安も…「名門大学」にこだわる受験生
最近では、厳しい「ゼロコロナ政策」の影響もあり、就職難が深刻化しています。受験生はどうにか政府が認める「名門大学(重点大学)」に入り、明るい未来を切り開こうと必死です。それゆえ、受験制度の「地域格差」を改めて疑問視する声が広がっているのです。
先ほどの4省(山東、山西、河北、河南)は人口が多く、今年の「高考」の受験生はあわせて343万人。中国全土の4分の1を占めています。
ところが、「名門大学」は地方に少ないため、とくに受験生が多い4省では、限りある枠をめぐり競争が激しくなります。だからといって、ほかの地方の大学を受けようにも、前述の不公平な制度が障壁となってしまうのです。
そこで誕生したのが「山河大学」でした。受験生たちは架空の学校に、理想の未来像を投影したのです。
■「山河大学」に政府も反応 浮き彫りとなった教育制度の矛盾
「343万人の受験生が1人1000元ずつ出し合えば、300億元(約6000億円)以上が集まる。この資金で4省の境界地点に大学をつくろう」
受験生たちはSNSでこうした投稿を繰り返しました。実際に資金集めは行われていませんが、あまりの反響を受け、中国政府もコメントすることになりました。
中国教育省次官(7月6日の記者会見にて)
「“山河大学”の件は私たちも留意している。高等教育資源の配置を絶えず改善し、とりわけ人口の多い省には教育資源の規模を拡大していく」
この発言に対し、SNSでは「口を動かすだけ」「この言葉は信じられない」といった厳しい声も。また、不公平な受験制度を見直すよう求める声もあります。将来、「山河大学」が実現するかはさておき、受験生が作り上げた架空の大学は、中国の教育制度が抱える問題を改めて浮き彫りにしたといえます。