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連載 ウクライナのいま 第4回「戦時下の子育て 『平和』を知らない息子へ」

2025年4月19日 19:17

破壊された幼稚園の中で子供たちが見せた無邪気な笑顔。私はこの時の複雑な感情を決して忘れないでしょう。

その時、私はこれが子供たちとこの幼稚園との最後の時間なのだと理解しました。ロシアは子供たちの幸せな「子供時代」を破壊してしまったのです。

■子供のためキーウへ

しかし、人生は続きます。やがて子供たちのために幼稚園のクラスがオンライン形式で始まりました。しかし、教師や友達との直接的なコミュニケーションがないことが欠点でした。

このような日々が2023年まで続きました。この状況が続けば、子供たちは成長し学ぶ機会がなくなってしまうと私たち夫婦は気づきました。

そこで2023年8月、7歳になった娘の(おおむね日本の小学校~高校にあたる)リセウムへの入学に合わせてキーウに引っ越しました。それに、息子を再び幼稚園へ通園させてあげたいという理由もありました。(※ウクライナでは学校の新年度は9月開始)

戦争により故郷を追われた人々と同じように、私たち家族もアパートを探し、幼稚園や学校の手続きをしなければなりませんでした。

とても大変なことでしたが、息子が幼稚園に通い、新しい友達、先生、おもちゃについて話してくれた時に初めて見せてくれた前向きな感情を思い出すと、幸せな気持ちになります。

戦争のさなかに子供たちが見せる笑顔は、私たち大人が彼らのために生き、働き、持ちこたえる原動力になります。

■平和を知らない息子

本格的な侵略が始まってから3年以上がたちますが、私は戦争前の暮らしをよく思い出します。休暇に国外へ行けたこと、砲撃や空襲がない静かな夜、夜中でも自由に出歩けたこと、飛行機の旅。

今では、平和な生活も、人生の楽しみをおう歌する機会も失ってしまいました。それでも私はこうした日々を思い出すことが出来ますが、現在6歳の息子にとって、3年以上続く戦争は人生の半分を占めています。砲撃も空爆もない、平和な暮らしを息子は覚えていないのです。

彼にとって、空襲警報が鳴れば幼稚園の地下シェルターに降り、ミサイルや無人機について友達と話すのが当たり前になりました。

「パパ、パパの学校のシェルターはどんなだった?空襲警報はよく鳴ったの?ミサイルでシェルターは壊れない?」… 息子から繰り返しこんな質問をされ、私は幾度となく「パパの子供時代には戦争はなかったんだよ」と答えました。そのたびに息子の顔には困惑の表情が浮かびます。「戦争がない暮らしって、どんな感じ?」

戦争が子供たちの子供時代を奪ってしまったことを実感することは、とても悲しいことです。

今年の9月、息子はキーウのリセウムの1年生になります。私たち夫婦は、戦争中であっても、子供たちを育て、成長させるために出来ることも出来ないことも全てに取り組んできました。子供たちがオンラインではなく、直接友人と会って勉強できていることをうれしく、また誇りに思っています。

停戦の実現は見通せないものの、以前よりも平和について語られることが多くなった今、私たちは希望を感じています。

私が夢見ていることは、息子が学校に入学し、こう伝えることです。「息子よ、戦争がない暮らしってどんなもの?って聞いたよね。戦争は終わったよ。これで、空襲がなく、ミサイル攻撃がない暮らしがどんなものか分かるようになる。全ての瞬間に感謝するんだ。なぜなら私たちの土地に公正な平和をもたらすため、たくさんの人が命をささげたのだから」

私は心から願います。私たちの祈りが届き、我々の子供たちがもう二度と、決してシェルターに逃げこむことがないことを。子供たちが独立したウクライナの平和な青空の下で暮らすことを。

最終更新日:2025年4月19日 19:17