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乳がんで両胸切除の女性ランナー “トップレス”で走るワケ

2025年5月17日 18:03
乳がんで両胸切除の女性ランナー “トップレス”で走るワケ

今年のロンドンマラソンで注目された、ある女性ランナーがいます。乳がんで両胸を切除し、再建手術を受けない選択をした彼女が“トップレス”で走るわけを取材しました。

    ◇◇◇

鈴木あづさ記者(NNNロンドン)「5万6000人以上が参加した今年のロンドンマラソン。1人の女性が人々の注目を浴びています」

ゴールへと向かう1人の女性ランナー、その姿が人々の心を揺さぶりました。

ルイーズ・ブッチャーさん、51歳。2022年に乳がんと診断され、健康だった右胸を含めて両方を切除しました。

ルイーズさん
「ほら見て、すごく大きな胸だったでしょ。こみあげてきちゃうわね」

医師は再建手術を勧めましたが、彼女は“元に戻る”ことより、“今の自分”を選びました。

ルイーズさん
「自分ではないものを戻す必要を感じませんでした。胸を残すことは、他人や社会に自分を合わせることでした。だから、再建手術を拒否したんです」

病気の前から目指していたロンドンマラソン。手術後、トレーニングを再開し、トップレスで走ることを決意しました。

ルイーズさん
「トップレスで走り始めた時、とても力強く感じ、自分自身を受け入れられるようになったんです」

トレーニング中もトップレスで走ります。

ルイーズさん
「全ての機会を逃したくないんです。誰かが私を見て会話が生まれます。車の中から見た子供たちが『どういうこと?』と聞いたら、お母さんやお父さんが、乳がんのことや、なぜ私に胸がないのかを話すことができますから」

トップレスで走ることについて、ネット上で批判や攻撃を受けたこともあるといいます。

ルイーズさん
「偏見や差別は女性に対する社会的な見方や、乳房が性的なものとされてきた歴史から来ているんです。議論を呼ぶことは当然だと思っていたし、そうした反応を望んでいたんです。だって、議論が起こる時こそ変化が生まれる時ですから」

トップレスで走ることで、伝えたいメッセージがあるといいます。

ルイーズさん
「困難は乗り越えられるということを示すこと、自分が正しいと感じないことに対して反対する勇気を持つこと、それを恥じる必要はないということを伝えたいんです」

夫のポールさんに、ルイーズさんがトップレスで走り始めた時のことを聞くと…。

夫・ポールさん
「少し驚きました。でもすぐにルイーズらしいなと思いました」

息子・オリバーくん
「母は勇敢です。自分の快適な空間を飛び出したんですから」

夫・ポールさん
「君は素晴らしいよ」

  ◇

そして、晴天に恵まれたマラソン当日。

ルイーズさん
「みなさん! 今、4マイル半の地点です。とても暑いです!」

女性ランナー
「あなたすごいわ!」

ルイーズさん
「ありがとう!」

走りきった彼女の姿に、観客は惜しみない拍手を送りました。

ルイーズさんに過去の自分にかけてあげたい言葉を聞くと…。

ルイーズさん
「あなたの中に強さはある、それはいつも自分の中にある。それを信じてと伝えたいです」

『胸がないことは恥ずかしい』、そんな偏見に向き合い、“今の自分”で生きるルイーズさんの姿は今、世界中に静かな勇気を広げています。

最終更新日:2025年5月17日 18:23