【全文】岸田首相が所信表明演説 臨時国会きょう召集
■構造的な賃上げ
次に、「構造的な賃上げ」です。
なぜ、日本では、長年にわたり、大きな賃上げが実現しないのか。
そこには、賃上げが、高いスキルの人材を惹きつけ、企業の生産性を向上させ、更なる賃上げを生むという好循環が機能していないという、構造的な問題があります。
一たび、このサイクルが動き出せば、人への投資が更に進み、この好循環は加速していきます。
そのため、賃上げと、労働移動の円滑化、人への投資という三つの課題の一体的改革を進めます。
物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、正面から、果断に、この積年の大問題に挑み、「構造的な賃上げ」の実現を目指します。
まず、官民が連携して、現下の物価上昇に見合う賃上げの実現に取り組みます。
公的価格においても、制度に応じて、民間給与の伸びを踏まえた改善等を図るとともに、見える化を行いながら、看護、介護、保育をはじめ、現場で働く方々の処遇改善や業務の効率化、負担軽減を進めます。
また、リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備や、年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行など、企業間、産業間での労働移動円滑化に向けた指針を、来年六月までに取りまとめます。
特に、個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を、「五年間で一兆円」のパッケージに拡充します。
あわせて、同一労働同一賃金について、その遵守を一層徹底してまいります。
新しい働き方に対応するため、個人が、フリーランスとして、安定的に働ける環境を作るべく、法整備にも取り組みます。
また、中小企業における賃上げに向け、生産性向上とともに、公正取引委員会等の執行体制を強化し、価格転嫁を強力に進めます。
■成長のための投資と改革
そして、「成長のための投資と改革」です。
社会課題を成長のエンジンへと転換し、持続的な成長を実現させる。この考えの下、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXの四分野に重点を置いて、官民の投資を加速させます。
第一の科学技術・イノベーションについては、国家戦略・国家目標の策定を進めてきた、量子・AI・バイオなどの分野において、官民の投資をこれまで以上に進めていくための方策を、早急に具体化します。
また、文理の枠を超えて行う、成長分野への大学等の学部再編促進や、若手研究者の育成に向けた支援強化、処遇見直しを通じた教職員の質の向上にも取り組みます。
第二のスタートアップについては、私自身、全国各地で、多くのスタートアップの創業者と意見交換を行ってきました。
日本ならではの技術を用いた最先端のバイオものづくり。IT技術を活用しながらの地域課題の解決。東南アジアでの積極的な事業展開。福島の地でのロボットの遠隔操作技術の開発。
いずれの皆さんも、この国の未来を切り拓いていくにふさわしい、大変頼もしい方々ばかりでした。
第二、第三のトヨタ、ホンダ、ソニーは、彼ら挑戦者の中から生まれる。その強い思いから、本年をスタートアップ元年とし、スタートアップ五年十倍増を視野に、五か年計画の策定に取り組んでいます。
公共調達における優遇制度の抜本拡充、税制上の優遇措置や資金面の支援に加え、若く優れたIT分野の才能の発掘・育成、日本と海外のスタートアップ・エコシステムの接続など、スタートアップ人材への投資も進めます。
第三に、グリーン・トランスフォーメーション、GXへの投資です。
年末に向け、経済・社会・産業の大変革である、GX推進のためのロードマップの検討を加速します。
その中で、成長志向型カーボンプライシング、規制制度一体型の大胆な資金支援、トランジション・ファイナンス、アジア・ゼロエミッション共同体。これまで申し上げてきた政策イニシアティブを具体化していきます。
同時に、GXの前提となる、エネルギー安定供給の確保については、ロシアの暴挙が引き起こしたエネルギー危機を踏まえ、原子力発電の問題に正面
から取り組みます。
そのために、十数基の原発の再稼働、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設などについて、年末に向け、専門家による議論の加速を指示いたしました。
第四に、デジタル・トランスフォーメーション、DXへの投資です。
デジタル田園都市国家構想の実現に向けた取組を競い合う、「夏のDigi田甲子園」を開催しました。
多くの方に参加いただき、デジタル活用による地方創生に向けた期待の高まりが、感じられる大会となりました。
DXの一層の推進に向け、マイナンバカードについて、健康保険証との一体化など、利便性の向上を飛躍的に進め、概ね全ての国民への普及のための取組を加速するとともに、地域でのデジタル技術の社会実装を重点的に支援していきます。
また、メタバース、NFTを活用したWeb 3.0 サービスの利用拡大に向けた取組を進めます。
産業のコメと言われ、大きな経済効果、雇用創出が見込まれ、経済安全保障の要でもある半導体は、今後特に力を入れていく分野です。
熊本に誘致したTSMCの半導体工場は、地域に十年間で四兆円を超える経済効果と、七千人を超える雇用を生む、と試算されています。
我が国だけでも、十年間で十兆円増が必要とも言われるこの分野に、官民の投資を集めていきます。
今回の総合経済対策では、中核となる日米共同での次世代半導体の技術開発・量産化や、Beyond5Gの研究開発など、最先端の技術開発強化を進めます。規制改革にも取り組みます。
二年で、アナログ的規制を一掃し、新産業の創出、人手不足の解消、生産性の向上や所得の増大につなげます。