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TPP、中国?台湾? 議長・日本の戦略は

2021年9月24日 15:46

TPP(=環太平洋経済連携協定)に中国と台湾が相次いで加盟を申請した。どちらの加盟を認めるのか?踏み絵を迫られる今年の議長国・日本。トランプ政権時代にTPPから離脱したアメリカの将来的な復帰を睨み、判断の先延ばしも模索する日本政府の戦略を解説する。(日本テレビ外務省担当・前野全範)

■対照的だった茂木外相の反応 「しっかり見極め」と「歓迎」

中国と台湾、双方のTPP新規加盟申請に対する茂木外相の反応は非常に対照的なものだった。

中国が加盟申請した際は、「高いレベルのルールを満たす用意ができているか、しっかり見極める必要がある」と慎重な姿勢を示したのに対し、台湾が加盟申請した際には「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し密接な経済関係を有する極めて重要なパートナー」とした上で、「歓迎したいと思っている」と述べたのだ。

また、茂木外相はTPPへの新規加盟を認めるかどうかについて、「戦略的な観点」や「国民の理解」も踏まえながら対応するとも語り、安全保障面や日本国内の世論にも配慮する姿勢を明らかにしている。

では中国と台湾の加盟申請は今後、どのように扱われていくのか?

■加盟できるのはどちらかだけ 「踏み絵」迫られるTPP加盟国

そもそもTPPは新たな加盟を認めるかどうかについて、コンセンサスルールと呼ばれる「全会一致」方式を採用している。

このルールのもとではTPP締約国のうち1か国でも反対すれば、その国・地域の新規加盟は認められない。要するに、既に加盟している国が事実上の「拒否権」を持つ制度だ。

中国・台湾ともに、先に自らのTPP加盟が認められれば、この「拒否権」を相手方に対して発動するのは確実なため、TPPに加われるのは、原則どちらか一つだけということになる。

もちろん例外的措置として中国・台湾の同時加盟を認めれば別だが、日本など既にTPPに加盟している11か国(TPPイレブン)は中国を取るのか、台湾を取るのか踏み絵を迫られる状態になっている。

■判断を迫られる議長国・日本 まずは英国の加盟手続き優先

さらに、今年のTPP委員会の議長国をつとめているのは日本。台湾当局もこのタイミングで加盟申請をした理由の一つとして「日本が議長国だから」と語るなど、日本政府の出方が注目されている。

この点について、ある外務省幹部は「まずは既に加盟に向けた手続きが始まっているイギリスについての議論・交渉が優先される」と説明する。

中国や台湾の加盟申請を認めるのかを急いで判断せず、まずはイギリスの加盟手続き・交渉を優先させつつ、先延ばし・後回しを図るという戦術だ。

TPPの議長国は、来年2022年になると日本から中国の加盟に前向きとされるシンガポールに交代するが、先ほど触れた全会一致の「コンセンサスルール」があるため、議長国を外れても日本は中国の加盟に「拒否権」を使うことも可能なので大丈夫、という考え方だ。

■本音ではアメリカの復帰を待望 だがバイデン政権は慎重…

また、日本政府がこうした時間稼ぎとも取れる戦略を模索している背景には、ある政府関係者が「日本にとってベストなのはアメリカがTPPに戻ってくることだ」と語るなど、トランプ政権時代にTPP離脱を表明したままになっているアメリカの存在がある。

先日、ニューヨークで行われた日米外相会談でも茂木外相がブリンケン国務長官に対しTPP復帰を促すなど、日本政府はアメリカが帰ってくることを強く望んでいるのだ。

そもそもオバマ政権時代には当時、副大統領だったバイデン氏を含め、民主党政権はTPPを推進する立場だった。しかし、アメリカ第一主義が高まる中、大統領となったバイデン氏も『中間層のための外交』を掲げて労働者層を重視。外国からの輸入が増加し国内の雇用に悪影響を及ぼす可能性があるTPPへの復帰に慎重な姿勢を崩していない。

経済政策を担当する日本の外務省幹部も、「少なくとも来年の中間選挙が終わるまではアメリカがTPPに復帰するという話にはならないだろう」と分析している。

■アメリカ待ちで大丈夫? RCEPには待ち人インド加わらず…

アメリカの復帰待ちという先延ばし戦術を模索する日本政府。しかし、バイデン政権が中間選挙後にTPP復帰へ方針転換するという明確な保証があるわけではない。

さらに、こうした復帰待ち戦略で日本政府は既に一度、痛い目にあっている。

東アジア地域の包括的経済連携協定=RCEPを巡るインドの扱いだ。日本政府は交渉の途中で離脱を表明したインドを復帰させるべく、ラブコールを送り続けたが、インドは対中国の貿易赤字増加を懸念して戻ってこず。

結局、RCEPは去年11月に日本や中国、韓国、ASEAN加盟国などインドを除く15か国が署名し、中国の存在感が突出する経済連携協定としてスタートすることになった。

振り返って今回のTPP加盟。たしかに性急に中国と台湾のどちらを取るのか判断するのは日本にとっても得策とは言えないだろう。しかし、その一方で、不確実なアメリカの復帰を待ちながらいつまでも決断を先送りすることもできない。日本政府はアジア地域の将来の経済連携のあり方も見据え、難しい判断を迫られている。