退職間近のベテラン刑事が自らの経験を後輩へ 異例の授業に込めた思いとは
埼玉県警のベテラン刑事が捜査のコツを伝えようと、後輩の警察官らを集めて異例の授業を行いました。退職を前にした刑事の思いとは。
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■刑事事件の第一線を走り続けたベテラン刑事
埼玉県警第三方面本部長の上原辰雄警視(59)。1982年に警察官になり、捜査一課の調査官や鑑識課長を歴任するなど放火殺人事件といった凶悪な事件の捜査に従事してきました。そんな上原警視は来春に退職予定。そこで。
「定年が近い焦りもある。これまで培ってきた経験はやめたら伝えられないでしょ。これで終わりにしちゃうのはもったいないと思って」
上原警視が講師となり、「刑事実践塾」というタイトルで若手警察官らに授業を行うことにしたのです。
「任意で募集をかけただけだったけど、想定の倍くらいの人が集まってくれた」
先月、開かれた授業には20代から60代までの48人の警察官が参加。一言も聞き漏らさないよう、真剣な面持ちで講義に聴きいっていました。
■事件現場で先入観を持つな
授業のテーマは、「重要犯罪現場における現場観察と死体の視かたについて」。
幾多の現場に臨場し遺体と向き合ってきた上原警視が、変死などの現場でどう考え、どう動けばいいのかを伝えます。
「人間の脳は先入観を持つなと言われても無理。それでも現場ではなにか不自然なことを1つでもいいから見つけることが大事」こう話す上原警視。
変死体が発見された現場では、遺体がどういう姿勢で倒れているのかを見ることで死亡した時の状況が推測でき、車の中で亡くなっていれば車のどの位置に乗っているかも注視する必要があるといいます。
また致命的な外傷のない遺体でも薬物を摂取させられていたり、口をふさがれて窒息死していたりと第三者がかかわって死亡した可能性を疑うことが大切。こうしたポイントをおさえて観察することで、病死などを偽装しようとする殺人犯を看破することができるのです。
■後輩警察官の刺激に
授業を受けた警察官からは、「常に最悪の事態を想定して冷静な視点を持ち、先入観を持たず柔軟な発想でいることが大切だと学んだ」「現場で前のめりにならず、一歩下がった視点で観察することを意識して捜査にあたりたい」などの声があがりました。
「現場に急行して、何をしていいかわからないというのは絶対にダメ。こういう事件の時はまずここを見ろ、というポイントをおさえていれば早期の事件解決につながるので、自分の経験を後輩に伝えて1つでも現場で役立てて欲しい」そう上原警視は話します。
「若手警察官の中に捜査のことを知りたいと飢えてる人は多いとわかった。自分のように1つでも事件を解決したいという思いを引き継いでくれる人がいると嬉しくなったよ」
上原警視の呼びかけに退職間近の他のベテラン刑事も次々に反応。それぞれの分野で授業が開かれる予定で、経験と思いは脈々と引き継がれていきます。