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「先生が死んだ」被災生徒が舞台に思い紡ぐ

2015年12月22日 4:45
「先生が死んだ」被災生徒が舞台に思い紡ぐ

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。21日は、「ブルーシート」をテーマに日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。

 ■岸田國士戯曲賞を受賞 舞台「ブルーシート」

 東日本大震災を題材にした「ブルーシート」という舞台が、ある学校の校庭を使って行われた。当時、福島県いわき市で被災した高校生たちの葛藤と希望が描かれている。

 いわき市は海に面していて、地震と津波の被害を受け、建物9万棟以上に大きな被害があった。舞台となった福島県立いわき総合高校では、校舎の裏の崖が崩れ、作品のタイトルにもなっているブルーシートが、当時、かけられていた。

 いわき総合高校には、演技や舞台技術などを学ぶ演劇系列というグループがあって、舞台「ブルーシート」は授業の一環として、生徒たちと演出家の飴屋法水さんとの共同作業によって制作された。

 2年前に上演され、去年「演劇界の芥川賞」ともいわれる「岸田國士戯曲賞」を受賞。今回、再演となった。

 ■被災した思いを自分の言葉で紡いだ

 舞台の出演者はみな被災者で、初演の時は高校生だったが、ほとんどの人は卒業して、今はいわき市の親元を離れ、東京で暮らしている。出演者の1人、大蔵郁弥さん(19)が当時の震災の被害について話してくれた。

 大蔵郁弥さん「うちの場合は、家が本震で崩れてしまって、津波の影響ではなく、地震本震の影響で家が崩れたというのと、原発が爆発したって聞いたので、避難したということです」

 この舞台を演出した飴屋さんは、被災した生徒たちの思いを聞き取ることから、芝居作りを始めたという。

 演出家・飴屋法水さん「こちらが震災についてどう思うべき、みたいなことを(被災した)彼らに言いたくなかったし。彼らが普段その(震災の)ことしゃべってないんだけど、本当は言いたいんだろうなみたいな。その感触がつかめたら、言葉にして言ってもらう」

 ■セリフが「支え」に

 こうして紡ぎ出された出演者のセリフには説得力がある。

 「たくさん人が死んだ。たくさん家が壊れた。放射能が、怖くて怖くて、しかたがなかった。校長先生が死んだ、その理由を、俺たちは誰も、言いあてることができない」

 また、前出の大蔵さんにも、舞台の中で特に心に残る言葉があるという。

 大蔵郁弥さん「個人的にはやっぱり、『人は見たものを覚えていることも、忘れることもできる』っていうあのセリフは、自分にかえってくるというか、そのこと(震災)を考えていくひとつの、なんて言うんだろうな、支えっていうんですかね」

 すべての公演を終えたあと、再び大蔵さんに話を聞いた。

 大蔵郁弥さん「東京にきた自分が今を生きているその感じ方とか、やってきたことが(芝居に)のってくれたらうれしいなって」

 演出家・飴屋法水さん「(Q:また彼らと上演したい?)どうなんだろうな、彼ら次第ですよね。変わっていくこと自体が再演のテーマだったりもしたので、またさらに変わった彼らとやってみるのも、おもしろいかもしれないね。僕が生きていればだけどね」

 ■受け入れて、始めるしかない

 きょうのポイントは、「受け入れて、始めるしかない」。ある出演者が、「震災というと、なぜか、ここから先は口にしてはいけない、直視しないようにしよう、という線引きがみんなの心にあるようで苦しかった。でもこのお芝居をしたことで、すべての経験を受け入れるしかない、そこから始めるしか手がない、ということに気づき、気持ちが楽になった」と話していた。

 震災から5年近くがたつ今、彼らのこの決意は、私たちにも求められているように思う。