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国宝・重文建築物の9割以上“耐震不十分”

2016年11月25日 20:15
国宝・重文建築物の9割以上“耐震不十分”

 名古屋城の天守閣が耐震不足だという看板が設置され、困惑が広がっている。お城やお寺など伝統的な建造物の安全性を高めるにはどうしたらいいのか。新たな取り組みを取材した。


■名古屋城、震度6強で倒壊の危険

 日本100名城のひとつ、名古屋城。年間170万人以上が訪れる人気の観光名所に、いま、来場者から困惑の声があがっている。

 その理由は1959年に鉄筋コンクリートで再建された天守閣。市の調査で震度6強程度の地震で倒壊する可能性が高いとされた。観光客からは「来る前にこれを言われていたら来ないかもしれない」「最近、地震も多いから、危ないなとは思うんですけど」「来たからには(天守閣に)のぼりますけど」という声が聞かれる。

 看板で注意喚起しているが、立ち入り禁止にはせず、入場は、本人の判断にゆだねられている。「名古屋城 耐震不足」についてネットではこんな声が。

 「そんなに耐震性やばいのか」

 「早く建て替えて欲しい」

 「さっさと入場規制して!」

 今後、耐震改修工事を検討しているという名古屋城。伝統的な建造物の耐震工事はいったいどんな方法がとられているのだろうか。


■耐震化の秘策は「チタン瓦」

 年間約3000万人が訪れる東京・浅草の「浅草寺」。再建から40年以上たった五重塔の耐震工事が現在、行われている。特別に、中の様子を見せてもらうことができた。

 浅草寺・屋根工事現場管理 大塚さん「(Q:五重塔の耐震化工事としては、どういう工夫を今されているんでしょうか?)“チタン”材料で屋根をふきかえております」

 耐震化の秘策は、金属の「チタン」でできた瓦。厚さは0.3ミリで、重さは約100グラム。一般的な日本瓦の20分の1程度の重さだという。

 大塚さん「(Q:瓦が軽いと耐震化につながるんでしょうか?)建物は頭が重たいと、どうしても揺れが大きくなってしまうので、頭を軽くすることで、揺れを収めるというか、小さくする」

 今年4月、最大震度7を観測した熊本地震。熊本城では1万枚以上の瓦がはがれ落ちる被害を受けた。こうしたことなどから今、屋根の耐震化が注目されている。浅草寺の工事では、チタン瓦を1枚1枚、木の土台に釘で打ち付けるので落下防止にもつながるという。

 浅草寺・守山執事長「土瓦と比べまして、(チタン瓦は)2倍以上の工事費用になってしまったわけですけど、1枚の瓦が落ちたりしただけでも大変な事故につながりますので」


■10年以上前に取り入れたお寺では―

 軽量のチタン瓦。お寺で使われるワケは他にもあった。

 チタン瓦の製造カナメ・安藤工場長「鉄の場合はさびて、放っとけば穴が開いてしまう。瓦の場合も50年くらいでふきかえが必要なんですね」「チタンというのは、変化しにくいサビにくい半永久的とも言われる金属なのでメンテナンスの必要がなくなる」

 年月がたってもサビにくく、耐久性が高いチタン瓦。この会社ではお寺からの注文件数が伸びているという。

 実は、チタン屋根をすでに10年以上前から取り入れたお寺もある。京都にある「酬恩庵一休寺」。室町時代、一休さんのモデルとなった一休禅師が晩年を過ごした京都の名刹(めいさつ)だ。ここではお堂や書院などに“チタン屋根”を使っているという。

 酬恩庵一休寺・田邊住職「だんだん色も落ちついてくると思います。周りの雰囲気と合うお寺らしい感じがすると思います」


■全国で耐震工事完了は10%以下

 地震の多い日本だが、伝統的建造物の耐震工事が行われているのは実は、まだごく一部なのが現状だ。文化庁によると、国宝と重要文化財に指定されている建物は、全国に4825棟あるが、耐震工事が完了したのは、わずか341棟しかない。

 すすまない背景には費用の問題がある。国宝や重要文化財の耐震工事では特別な技術や材料を必要とするため、数億から数十億円と高額になる。国からの補助金も出るが、所有者の負担が大きく、さらに工事に伴う拝観停止などを余儀なくされることから、耐震化がなかなかすすまないという

 耐震工事を進めることはもちろん大事だが、その間、閉鎖できないのであれば、単に看板を立てるだけではなく、耐震性が不十分であることを前提に、避難訓練や安全対策を検討していくことも重要だ。