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キネ旬1位アニメ ヒットの裏側に○○の力

2017年1月10日 17:39
キネ旬1位アニメ ヒットの裏側に○○の力

 10日に発表された「2016年キネマ旬報ベスト・テン」で、映画「この世界の片隅に」が日本映画部門の1位に選ばれた。アニメーション作品が1位になるのは、1988年の「となりのトトロ」以来だという。


■ヒットの裏側に…

 実は「この世界の片隅に」は、ヒットの仕方が普通とは少し違っていた。映画は公開直後に最も多くの観客が集まり、その後、徐々に観客数が減っていくのが一般的だ。

 一方で、「この世界の片隅に」は去年11月に公開された当初、63館のみでの小規模上映だったのが、SNSなどで映画を見た人たちの口コミから人気に火がつき、今月7日現在、177館で公開されている。興行収入も10億円を突破し、異例のヒット作となっている。


■物語のあらすじ

 舞台は戦時中の広島県呉市。18歳の主人公・すずは、見知らぬ若者の元へお嫁にいく。戦時中、どんどん物資が不足していく。すずは工夫を凝らし、日々の食卓を彩り豊かなものにしていく。

 何度も空襲に襲われ戦火は激しさを増し、日々の暮らしを形作ってきた大切なものが失われていく中、前を向いて懸命に生きる姿が描かれている。


■わずか8日で2000万円超え

 映画の原作となった漫画も以前から人気の作品で、第13回文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞している。

 ただ、当時の庶民の日常を淡々と描いていて派手さがないため、映画化するには「収益性や観客数を見込めない」との理由から、スポンサーがなかなかつかなかったという。

 「映画化するのは不可能」と言われていた作品の活路を切り開いたのが「クラウドファンディング」だった。

 クラウドファンディングは、事業をスタートさせたい発案者などがインターネット上でそのプロジェクトについて出資を募り、共感した不特定多数の支援者から資金を集める仕組みで、私たちも参加することができる。

 「この世界の片隅に」も2015年、クラウドファンディングで映画の予告編制作費用として2000万円を募った。絵コンテや、現地調査の様子などとともに制作への想(おも)いがつづられていたが、その想いに賛同した人たちから寄付が集まり、わずか8日間で目標金額の2000万円に達したという。

 その後、2か月余りの間に3374人から3600万円以上の資金が集まった。この金額は国内映画がクラウドファンディングで調達した金額としては2015年5月当時、歴代最高額を記録したという。

 予告編の制作費用2000万円があっという間に集まるという盛況ぶりが、この作品を取り巻く状況を一変させた。

 あまりの反響の大きさに、映画の本編制作をするための大口スポンサーもつき、映画化は不可能だと言われた作品が去年11月の公開に至った。クラウドファンディングでの盛り上がりが、スポンサーにつく企業にとっては人気を示すバロメーターになっていたわけだ。


■想いをみつける

 さらに、今回クラウドファンディングで寄付した人には特典も付いていた。映画のパンフレットの最後のページに、クラウドファンディングを通じて1万円以上出資した2000人以上の名前も書かれている。また、その名前は映画のエンドロールにも流れていて、ファンにとってはうれしい特典となった。

 この作品への出資を募ったクラウドファンディングサイト「Makuake」を運営するサイバーエージェント・クラウドファンディングの中山亮太郎社長は「支援者はお金だけでなく、自分も映画制作メンバーの一人という気持ちで、すごい熱量で応援してくれた」と話している。いわば、公開前から熱狂的なファンに支えられている作品だったということだ。


 映画「この世界の片隅に」も監督が原作にほれ込み、この作品を映画にしたいという強い想いから生まれた作品だ。映画の中で主人公・すずはこう言っている。

 「ありがとう。この世界の片隅にウチをみつけてくれて」

 今回のクラウドファンディングのような仕組みで、社会に埋もれている誰かの想いをみつけて、共感したみんなが力となって、その想いを実現していける世界になっていければよいものだ。