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“エシカルな洋服”で「人や地球に恩返し」

2021年6月14日 19:00
“エシカルな洋服”で「人や地球に恩返し」

人権問題や環境汚染など、多くの課題があるファッションビジネス。植月友美さんは、人や環境に配慮した洋服だけを世界中から集めて販売するセレクトショップ「Enter the E」を運営する。大好きな洋服の背景にある社会課題に向き合うきっかけとは?

■エシカルな洋服を普通の人が普通に買える世の中に

「Enter the E」ではブランドを選ぶ際に、独自の基準を設けている。例えば、農薬などを使わず環境や生産者の健康を配慮した材料を使っているか。職人や工場で働く人の人権が守られているか。創業者がどのようなビジョンを掲げているか、など。エシカルを目指すブランドの姿勢を何よりも大切にしている。

オンラインストアや実店舗の他に力を入れるのは、週に一度行う“オンライン受注会”。YouTubeライブ上で、洋服に込められた思いをデザイナーにインタビューし、素材や製造過程のこだわり、着こなし方を紹介する。

「洋服の背景にあるストーリーに触れ、本当に気に入ったら注文してもらいます。受注してから生産することで、在庫は不要に。大量生産・大量消費・大量廃棄が当たり前な日本において、少しでも衣類ロスを防ぎたい。じっくり吟味して、長く使える洋服と出会う機会を提供できたらうれしいです」

消費者庁が2020年に行った意識調査によると、エシカル消費につながる商品・サービスを購入したいと答えるは8割以上。一方、エシカルな衣料品を購入したことがある人は約3割だった。

「エシカルなものを買いたいのに買えない。それは、選択肢の少なさが原因の一つだと思ったんです。これまで日本のエシカルファッションは、生成りのドレスが3万円もする高価なものだったり、テイストがナチュラル過ぎて職場では使いにくかったり。価格やデザインが限られていたんです。だからこそ、手頃な価格かつデザイン性が高い商品を紹介することで、消費の選択肢の幅を広げたい。エシカルな洋服を、普通の人が普通に買える世の中にしたいです」

■大好きなものが、誰かの犠牲の上に成り立っていた

幼少期から洋服が大好きだった植月さん。高校を卒業後すぐにファッション業界にはいり古着のバイヤーなどを行った後、グローバルビジネスを学ぶためカナダやアメリカに留学。ファッション経営を学んだり、ニューヨークの老舗ブランドなどで働いたりして、帰国。大手小売企業に入社し、店舗運営から商品企画、マーケティングまで様々な業務を担当する。

そんな植月さんが事業を立ち上げる転機となったのが2009年。大手企業に入ったものの、留学先で学んだことがまったく生かせず、働く目的を見失っていた。

「ストレスで洋服を買い続けた結果、500万円もの借金ができていました。その時初めて、自分のためだけに生きるってむなしいと感じたんです。絶望の中で湧いてきたのは、もう十分自分のために生きたのだから、今度は誰かのために生きてから死にたいという気持ちでした」


「洋服が好き」というのは何にも変えられないエネルギー。だからこそ、それを社会に役立つ形に転換できないか。そう考えた植月さんは、インターネットで「洋服 社会貢献」と検索をした。そこで偶然目にしたのは、大量の農薬がコットン畑に散布される映像だった。大地は枯れ、健康被害で苦しむ生産者の姿がそこにはあったという。

「大好きなものが、誰かを苦しめている可能性がある。それを知った時は本当にショックで。無自覚に自分が加担していたことに胸が苦しくなり、泣き崩れました」

それまではファッション業界で働きながら、純粋に洋服を楽しむ消費者の一人だった植月さん。この時から、人も地球も傷つけないファッションの在り方を模索するようになる。

「会社に新規事業として“自産自着”ビジネスを提案し、試みました。これはオーガニックコットンの農園を作り、消費者が材料を栽培して洋服を作って着るまでを体験する事業。製造過程に関わることで“自分ごと化”する人を増やしたいと考えたのです。ところが、1年間に作れる洋服はほんのわずか。ビジネスとして成立しませんでした」

現実を突きつけられる中、ある言葉に背中を押された。バングラデシュの銀行で貧困対策に取り組み、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の講演会に参加したのだ。「誰もが社会を変える起業家になれる」というユヌス氏の言葉を聞いた時、スイッチが入った。

「それまでマグマのように沸沸と内側にあったエネルギーが、パーンと放出するような感覚でした。『ファッションビジネスを変えるために起業しよう!』と、その場で決めたんです」

12年間勤めた会社をすぐに辞め、2018年からソーシャルビジネスを学ぶスクールに通った。そこから改めて事業モデルを見直したところ、世界中には既にエシカルファッションに取り組むブランドが約700もあることを知った。

「志を持った作り手がこんなにいるなら、それを日本で紹介する仕組みを作ればいい。そう気づいて、2019年に『Enter the E』を立ち上げました。自分でブランドを作るより、セレクトショップという形の方が多くの選択肢を消費者に届けられると考えたのです」

■洋服で人や地球に恩返しをしたい

自分が紹介した洋服を通して、実践者を増やしたいと植月さんは語る。

「実践というのは、私のように起業家になることだけでなく、普段の暮らしで消費を選択することもそうだと思います。例えば私たちのショップの購入者が、人や環境への配慮が重要なことを知る。それをきっかけに、素材や製造工程、衣類ロスの問題まで考えて消費するようになる。1着の洋服との出会いをきっかけに、そうやって実践する仲間が増えることが喜びです」

植月さんにとって「Enter the E」は、ビジョンを実現するための入り口といえる。まずはこのショップを通して、エシカルな選択をする顧客を育てることで、日本の消費の在り方を変えていく。そして今後は、生産者や農地に負担をかけない仕組みをさらに整えたいと言う。

「今より少しでも“八方よし”の状態に近づけたいですね。サステナブルとは、特定の誰かが勝つのではなく、あらゆる人や環境の調和がとれた状態だと思います。私には“人と地球が洋服を楽しめる社会”という、見たい絵があるんです。それに向けてできることを一つひとつ取り組みたい。これまで大好きな洋服で人や地球に迷惑をかけてきたので、今度は洋服で恩返しがしたいです」  

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。