連休後の子への対応<前編> こどもが学校に行きたくないと言ったら? 親がとるべき行動とは? 叱るよりこどもの行動の理由に目を向ける
■すべての行動には、それをする理由がある
──先生が取り組んでいるポジティブ行動支援について教えてください。
ポジティブ行動支援(英語ではPositive Behavior Support、PBSと略されることもあります)は、もともと重度の知的障害がある方々のために開発されたアプローチです。最近では、特にアメリカの学校教育で、よく活用されています。
この考え方の基本は「すべての行動には、それをする(あるいは、それをしない)理由がある」というシンプルな考え方です。
例えば、ある行動をすると人から注目してもらえたり、自分の要求が通ったり、嫌なことを避けられたりするなど、子どもにとって何らかの得るものがあるから、その行動を選んでいるのだと考えます。一見「問題行動」に見える行為も、実は子どもが自分のニーズを表現する手段なのだと理解することが大切です。
重要なのは、こうした行動を罰や強制で、やめさせようとするのではなく、「この子はこの行動で何を伝えようとしているのだろう」と考える視点を持つことです。
具体的な支援の方法には主に3つの柱があります。1つ目は環境を整えること。2つ目は問題行動の代わりになる適切な行動の仕方を教えること。3つ目は心理学では「強化」と呼ばれるもので、ある行動をした結果、子どもが良い経験をするよう設定することです。
例えば、適切な行動を褒めるといった方法です。褒め方にはコツがありますが、基本的には子どもと一緒に「できたね、良かったね」と成功を共に喜ぶ姿勢を示すことが効果的であることが多いです。子どもが「良かった」「うれしい」と感じることで、その行動は自然と繰り返されるようになります。
具体例:朝の支度が遅く、遅刻してしまうケース
朝の支度が遅れて遅刻が続く場合、その背景にはいくつかの要因が考えられます。単に睡眠不足で眠いという可能性もあれば、忙しい親御さんが普段、十分に関わる時間を持てないため、子どもが無意識のうちに親の注目を引こうとして、あえてゆっくりと支度している可能性もあります。
忙しい朝は大人もイライラしがちで、すぐに叱ってしまいがちですが、ポジティブ行動支援では、まず環境を整えることから始めます。例えば、就寝時間が遅く、十分な睡眠が取れていないことが原因なら、就寝時間を適切に設定し、早く眠る習慣を少しずつ作っていきましょう。
就寝前の流れを決めておくことも効果的です。お風呂の後にリラックスできる活動を取り入れたり、寝る前のスマホやゲームの使用に一定のルールを設けたりする工夫も考えられます。
また、気が散りやすい子どもの場合、朝の活動中に別のことに気を取られて、予定通りに進められないことがあります。そんな時は、朝やるべきことを時間とともに視覚的に示した表を作ると効果的です。「7:00~7:10 布団から出て着替える」「7:10~7:30 朝ごはんを食べる」といった具体的な時間配分を示し、終わったらチェックを入れる仕組みを取り入れてみましょう。
このプロセスで大切なのは、子どもが各ステップをクリアするたびに、親御さんが「できたね」と認め、一緒に成功を喜ぶことです。こうした小さな成功体験の積み重ねが、子どもの「自分にもできる」という感覚を育て、自分から行動する力につながります。
また、前の晩に翌朝の準備(服を選んでおく、カバンの用意をするなど)をしておくことで、朝の混乱を減らすことができます。このように、問題行動を単に、やめさせようとするのではなく、その背景にある理由を理解した上で、環境を整え、適切な行動を強化していくアプローチが、長続きする行動の変化をもたらす鍵となります。
──先ほどの具体例の中で、就寝時間に関する話題がありました。例えば親子で「夜9時半には寝よう」と約束しても、実際には、なかなか守られないことが多いと思いますが、どのように対応すればよいでしょうか。
そうですね、この状況は多くのご家庭で見られる課題です。単に「夜9時半に寝る」と決めるだけでは、うまくいかないことが多いので、もう少し工夫が必要です。
まず、学校から帰った後の過ごし方全体を見直して、夜9時半に寝るためには何時までに何をすべきかを親子で一緒に考えてみましょう。
効果的な方法の一つは、夕方から夜にかけての活動とその時間配分を紙に書き出してみることです。また、目標達成には段階的なアプローチが有効です。例えば、最終的に夜9時半に寝ることを目指しつつも、まずは実際に何時に寝ているかを記録していきます。現在は夜11時に寝ている場合でも、叱らずに客観的に記録し、少しでも目標時間に近づいたら「昨日より早く寝られたね」と小さな進歩を一緒に喜びましょう。
この記録には副次的な効果もあります。就寝時間が遅くなりやすい日のパターンが見えてくるかもしれません。例えば、特定の活動をした日や、宿題が多かった日、あるいはスマホやゲームを長く使った日などに遅くなる傾向があるかもしれません。
こうした記録から、就寝時間に影響する良い要素と改善すべき要素を親子で話し合い、生活の中で良い要素を増やしていくことが効果的です。さらに、約束を守るやる気を高める方法として「トークンエコノミー」という仕組みも役立ちます。これは、決めた時間に寝られた日にシールや丸印などをカレンダーに貼り、一定数たまったら、子どもが楽しみにしている少し大きめのご褒美と交換できるという方法です。
こうした目に見える形の報酬システムは、抽象的な目標を小さな達成可能なステップに分け、子どもの自主性と達成感を育てる効果があります。
このように、良い生活習慣づくりには、具体的な計画、段階的な目標設定、継続的な記録と振り返り、そして適切な報酬の仕組みを組み合わせた総合的なアプローチが効果的です。親御さんの一貫した関わりとポジティブなフィードバックによって、子どもは少しずつ、より良い生活習慣を身につけていくことが期待できます。