ホームルーム ~伍朗ちゃんがいる教室~

伍朗ちゃんが還暦を過ぎた生徒たちに送った、最期の言葉…。
「私だけが真理と相会うことができる自由である」
長野県の松本深志高校。会社の役員、官僚、医師になった3年8組の生徒が“ホームルーム”のため、母校の教室に集まります。クラスの担任だった伍朗ちゃんこと山本伍朗さん。68歳で教師を引退し、教え子が社会に出たあとも、まだ伝えたいことがあります。
伍朗さん「みんなが定年を過ぎたというから、自由とは一体何か?ということを考えるときだよ」
43年前に卒業した3年8組のホームルームで哲学を語ります。
文部科学省で勤務していた生徒「純粋な気持ちで、知性を求める場」
高校教師の生徒「伍朗ちゃんがいて、話をしてくれるのが大事なんだけど」
このホームルームに出席するため全国から年に1度、生徒たちが帰ってきます。卒業後のホームルームが始まったきっかけは、伍朗ちゃんに8組で古希のお祝いを提案した時のこと。
伍朗さん「お祝いはありがたいけれど、お祝いより授業がやりてえと言ったんだ」
こうして同窓会の代わりに開かれたホームルーム。
伍朗さん「ありがとうの本当の意味とは『いま君がそこにいてくれる』ということなんだよ」
生徒たちも教壇に上がり、自分の仕事について語ります。この年は、ゴッホのひまわりで有名な美術館の館長。
「美術館の館長ということで500年、1000年先の人類が見ることができるように、ちゃんと手入れをして保存をする。そして時々みなさんにも見ていただくと。これが一番大事な役割だろうなと」
伍朗さん「隆太君でっかくなったなあ。ありがとう」
高校教師として働いている生徒「ここに立つと授業してしまいそう」
伍朗ちゃんの姿に影響を受けて、高校教師になった生徒もいました。
新型コロナウイルスの感染拡大もある中、ホームルームをどう開催するのか。
医師の生徒「先生の部屋から、我々に語ってくれれば」
伍朗ちゃんの自宅と教室をインターネットで結んで、11月にホームルームを開催することにしました。
伍朗さん「教室で話すことはいいね。あんないいことはねえなあ」
しかし、ホームルームを10日後に控えた10月29日、伍朗ちゃんは息を引き取りました。
卒業44年目のホームルームは“伍朗ちゃんの遺言を聞く会”となりました。教室の外からもオンラインで参加し、2020年のホームルームが始まりました。
伍朗さん「こんなにいいクラスに恵まれて不思議な気がする。1番は私は幸せ者だなあ」
最期の言葉を聞いて、伍朗ちゃんへの思いを語ります。
元保育士の生徒「うまくいかないことがいっぱいあって就職してから伍朗先生を訪ねて深志に来たことがあるんですけれど、『さやかさんと(保育園で)出会う子どもは幸せだな』と言ってくださった。私の中でその時、パーっと光が差したような」
どんなに年を重ねても、戻りたい教室。
伍朗さん「人間と行き会うにはどこに行けばいいか。教室で初めて人に会えるんだよ」
2021年5月2日放送 NNNドキュメント’21
『ホームルーム ~伍朗ちゃんがいる教室~』
(テレビ信州制作)を再編集しました。