地下鉄サリン事件から30年 教団の今…「アレフ」若い世代を勧誘か【バンキシャ!】

オウム真理教による地下鉄サリン事件から20日で30年となります。無差別テロを起こした教団の後継団体「アレフ」が、いまも信者を増やそうと特に「若い世代」を狙っているとみられています。その巧みな勧誘手法とは。(真相報道バンキシャ!)
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1984年、麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚が開いたヨガ・サークルから始まった「オウム」。松本元死刑囚は“尊師”と呼ばれ、最大で約1万人の信者を集めた。殺人を正当化する危険な教義を説き、教団は次第に“過激化”していった。山梨県内にサティアンと呼ばれる巨大な施設を建設し、化学兵器として知られる猛毒・サリンを製造。
そして、30年前の1995年3月20日。東京の中心部・霞が関に向かう地下鉄の車内でサリンをまく、「地下鉄サリン事件」を起こした。14人が亡くなり、6000人以上が負傷。未曽有のテロだった。
せい惨な事件を指示した松本元死刑囚を、今も深く信仰しているとみられる後継団体「アレフ」。山崎さん(仮名・60代)は、その「アレフ」に子どもを奪われた、と訴える。
山崎さん(仮名・60代)
「『空中浮揚ができるんだ』と、見せようとしたこともありました。今から思えば、マインドコントロールにかかっていたのかな。(オウム真理教について)『ネットに出ていることは全部でたらめでウソだ』と、僕たちを説得しようとしたこともあります」
そして、「結局、本人は出家していった。最後に『今生の別れだ』と言葉を残して、(子どもは)電話を切りました」と話す。
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信者獲得を進める「アレフ」。どう勧誘しているのか。脱会の手伝いをする支援者の証言をもとに、実際にあったケースを再現した。
数年前の春、10代の大野さん(仮名)は、将来について悩んでいた。ある日、「何か人に役立つことをしよう」と思い立ち、ネットで“悩みを抱える人の文通相手になる”というボランティアを見つけて申し込んだ。これが、「アレフ」への入り口だった。
数日後、面接を受けるため、ファミリーレストランへ。すると、40代くらいの女性が現れた。女性は面接をするだけではなく、大野さん(仮名)の悩みを親身になって聞いてくれたという。
別の日にはヨガに誘われ、徐々に関係が深まっていく。さらに、“先生”と呼ばれる男性も登場し、ここでも悩みを聞いてくれた。
実は2人は、ボランティア団体を装った「アレフ」の信者。ただ教団名は明かさず、信頼関係を築いていく。次第に「カルマの法則」、“自分の行いは自分に返ってくる”という宗教を感じさせる言葉も出始めた。
面接から数か月後に連れていかれたのは、とある施設。そこでは別の男性信者が、ヨガを教えていたという。この場所こそ、道場と呼ばれる「アレフ」の施設だった。そこで初めて入会を迫られた。
迷う気持ちもあったが、すでに“教団の教え”にのめりこんでいた大野さん(仮名)。入会金と教団の資料代、合わせて数万円を支払い入会した。
信者は過去の事件について、「すべてでっち上げで、オウム真理教は何も悪くない」と説明。大野さん(仮名)は、これを信じてしまったという。
「アレフ」はこうした、オウム真理教を詳しく知らない若い世代を狙って勧誘していると、公安調査庁はみている。
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もう1人、私たちが話を聞いた近藤さん(仮名)の子どもも、やはり一連のオウム事件を知らない世代だった。
記者
「子どもが『アレフ』に入信したことを、どういうかたちで知った?」
近藤さん(仮名)
「子どもから直接、『出家します』という言葉を聞きました」
近藤さん(仮名)は慌てて、夫とともに一人暮らしをしていた子どもの元へ。懸命に引きとめたという。しかし、「かみ合わなかったですね…」「(アレフに)親も誘うような内容。私たちも『入会すれば会えます』と、この先も」と話す。
近藤さん(仮名)はその後も複数回にわたり説得したが、子どもはイヤホンで耳を塞いで拒絶。説得はかなわなかった。
近藤さん(仮名)
「私が最後に言った言葉は『帰るところはあるんだからね』。本人は決意している感じなので、それ以上は言えなくて」
記者
「それ以降は、会うことも連絡とることもできなくなった?」
近藤さん(仮名)
「できないですね。(子どもが)携帯も替えましたし」
「一切連絡はつかなくなってしまって」
「アレフ」は取材に対し、「『名前を隠した勧誘活動』と受け取られるような布教は
認めていない」。また、「家族と面会や連絡をしないよう強制はしていない」などとしている。
しかし、カルト問題を研究する専門家は、家族と分断させることで脱会を難しくしていると指摘する。
立正大学心理学部・西田公昭教授
「家族との情的な関係を断ち切らなければ、修行の妨げになると教えられている」
「ですから、自ら親に対して『会わない』と言ってくるはず。しかし教団からすると、これは非常に都合がいい」
「ある意味、戦略として親子関係を断ち切る」
山崎さん(仮名・60代)の子どもは、30代になった。親子の“唯一のつながり”、それは…。
山崎さん(仮名・60代)
「いつも下書きをして、スマホに打ち込む」
毎月、送り続けているというメール。つづった言葉は…。
「私たちは70歳近くになりました。君との時が10年以上前に止まってしまったことが気がかりで残念に思う毎日です。どうかまた一緒に生活をして、分かり合える人生を、共に歩むように切に望みます」
子どもからの返事はない。それでも山崎さん(仮名・60代)は送り続ける。
山崎さん(仮名・60代)
「地下鉄サリン事件から30年たって過去の出来事ととらえないで、今も続いているんだということをぜひわかってもらいたい」
(3月16日放送『真相報道バンキシャ!』より)