男性の育休はメリットだらけ? 取りにくい「職場の雰囲気」変えるには
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■止まらぬ少子化…出生数は過去最少を更新
72万988人。去年1年間に届け出のあった日本で生まれた日本人と外国人、外国で生まれた日本人の子どもは、統計開始以来過去最少となり、9年連続で減少した。2023年から比べてもおよそ3万7000人減って、直近3年間でみても、毎年5%以上減り続けている。
止まらぬ少子化に対し、政府は2023年に「こども未来戦略」(総額3兆6000億円)を策定し、様々な政策の一つとして「共働き・共育ての推進」を盛り込んだ。女性に家事や子育ての負担がかかりすぎていることが少子化の背景にあるとも指摘される中、夫の家事・育児時間を増やし、共育てを定着させる第一歩が男性の育児休業の取得促進だとし、政府は2025年までに男性の育休取得率を公務員は85%、民間企業で50%という目標を掲げている。
■育休取得率の最大の壁は「雰囲気」
厚労省の調査では、男性の育児休業取得率は2023年度で30.1%。過去最高とはいえ、目標には到底及ばず、先進諸国でみても低い割合だ。男性の育休取得はなぜ難しいのか。
少子化対策のデータ分析等を行う東京大学の山口慎太郎教授によると、最大の要因は「育休を取得しづらい職場の雰囲気」だという。調査結果によると「育休中は手取りが減る」といった経済的な理由よりも「上司や同僚への気兼ね」こそが、日本の男性育休取得の最大の壁であることが判明したという。
■1か月の男性育休がその後の人生を変える?
山口教授は、海外での科学的研究で明らかになった男性育休の「メリット」についてこう解説する。
カナダのケベック州での研究では、およそ1か月間の育休が男性のその後の子育て・家事時間を延ばす方向に影響を与えることが明らかになったという。
ケベック州では2006年以降、男性が5週間の育休を取れるよう改革が行われたが、この改革により男性の3年後の子育てや家事にかける時間がおよそ2割延びたという。
具体的には、3年後の子育て時間は1日あたり90分から110分に、家事時間は70分から85分に増えていた。つまり、およそ1か月の育休は父親の人生を変えるほどのインパクトがあったということだ。
■育休中に赤ちゃんとふれ合うと男性にも「愛情ホルモン」が
この根拠は脳科学にあるという。生物学的に女性は「オキシトシン」といういわゆる「愛情ホルモン」が出産や授乳によって分泌される一方で、男性は自然には分泌されない。しかし父親が育休期間にミルクをあげる、おむつを替える、抱っこする、など子どもとスキンシップをとることで「オキシトシン」は分泌されるようになる。そうすると「愛情ホルモン」により、さらに子どもと関わりたくなるといったサイクルがうまれ、1か月の育休が3年後の行動を変えていくのだという。
このほかにも、ノルウェーの育休研究では、父親が育休を取ることで16歳時点での子どもの偏差値が上がることや、アイスランドの育休研究では、出産5年・10年後の離婚率が下がったという研究結果もあるという。
■実は世界最高水準の日本の育休制度
数々の研究により、家族単位でもメリットがあると明らかにされている育休。実は日本の育休制度は、ユニセフから世界最高水準と評価されている。制度上、父親に認められている育休取得期間が長いことや休業中に給与がカットされるのを補うための給付金が多いことなどがその理由とされている。
そして、厚労省が去年7月発表した調査では男子の高校生・大学生の84.3%が育休を「取得したい」、「どちらかというと取得したい」と答えた。
政府は「職場の文化・雰囲気を抜本的に変える必要がある」と呼びかけているが、実は充実している育休制度がより多くの男性にも活用されるにはどうすればいいのか。もっと「育休」の意義が積極的に発信されていく必要がある。