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ECMOで命つなぐ4歳の女の子「絶対助けるからね」両親の思いとは

2023年5月26日 20:00
ECMOで命つなぐ4歳の女の子「絶対助けるからね」両親の思いとは

東京都内で入院中の4歳の女の子。生まれつき腎臓が弱いものの、今年のお正月にはおせち料理を食べ、「あけました」と元気に話していたのですが、1月、体調を崩して重い肺炎になり、今、人工心肺装置=ECMO(エクモ)をつけて命をつないでいます。親が提供する肺を移植し、助かる可能性がありますが、そこには大きな壁が。

◇ ◇ ◇

都内の病院の集中治療室に入院中ののんちゃん4歳。重い肺炎で、肺の役割を果たす人工心肺装置=ECMO(エクモ)がつけられてから、すでに4カ月がたちました。父・立川満さん、母・恵理さんは毎日、ベッドの傍らでのんちゃんの手を握りながら、声をかけ続けています。

「のんちゃん、頑張ってくれているね。偉いね。大好きだよ。きょうもありがとう。絶対助けるからね。ママはのんちゃんの味方だよ。一緒に頑張ろうね」(母・恵理さん)

のんちゃんにはエクモがついているため、体を動かさないように筋弛緩剤が投与され、痛みや苦痛を感じないよう麻酔薬も使われ、眠っているような状態が続いています。しかし、薬を少し弱めると、両親の「のんちゃん」という呼びかけにぱっちりと目をあけることもあるといいます。

肺炎になる前、去年秋には七五三のお祝いをし、今年のお正月には恵理さんの作ったお雑煮とおせち料理を食べ、「あけました」「あけました」とうれしそうに話していたのに…。その数日後、娘にエクモがつけられるとは 両親は想像もしていませんでした。

■急激に悪化した肺炎

のんちゃんが肺炎で入院したのは今年1月のはじめ。生まれつき体が弱いのんちゃんは、あるウイルスが元で肺炎になり、それが急激に悪化し入院の翌日にはICUで気管挿入し、人工呼吸器がつけられました。さらに入院から4日後。このままでは命が危ないと判断され、エクモがつけられました。診断は「ARDS(急性呼吸窮迫症候群)」。レントゲンを撮ると肺が真っ白になっていて、重い呼吸不全になっていました。

有効な治療薬もなく、エクモで肺を休ませ、回復を待つことに。しかし肺はなかなか回復せず、時間だけが過ぎていきました。

「のんちゃんは本当に頑張って頑張って1日1日を生きてくれている。1日1日がどんなにありがたいか、かみしめながら私も生きていました」(母・恵理さん)

■肺が石灰化…助かる道は「肺移植」

3月はじめ。なかなか改善しない肺の症状の原因を探るため、エクモをつけたままCT検査が行われました。そこで"肺のほとんどが石灰化している"という深刻な事実がわかったのです。そして両親は医師からこう告げられました。「これ以上エクモをつけるのは延命治療になります」。つまり、治る見込みがないという意味でした。

別の病院によるセカンドオピニオンも同じく厳しいものでした。それでも、両親はのんちゃんの命を諦めることはできないといいます。

「大好きな娘ちゃん。鎮静が弱まると目も開けてくれるし、アイスだよと言うと口もあけてくれます」

「CTスキャンの画像から、先生たちが救命できないという判断をするのは、仕方のないことだと分かりました。それでも脳や心臓が動いて頑張っている娘ちゃんのエクモを止める、すなわち命をとめる、と言われるのは、私は全く理解することができません」(母・恵理さん)

のんちゃんを救えるかもしれない方法、それは「肺移植」です。親族の肺を移植する生体肺移植、もしくは脳死肺移植があり、立川さん夫妻は、夫妻の肺の一部をのんちゃんに提供する生体肺移植を希望しています。しかし、この移植にも大きな壁がありました。実はのんちゃんは生まれつき腎臓が悪く、日本のガイドラインでは腎不全を抱える人は肺移植の適用外となり、移植を受けることが難しいというのです。

■「ポッター症候群」とは

のんちゃんには、お母さんのおなかにいる頃から、疾患がありました。のんちゃんを妊娠中、お母さんの子宮の中の羊水が極端に少ないため、検査をしたところ、その時点では、のんちゃんには腎臓がみつからず「ポッター症候群」と診断されました。子宮内の羊水は、ほとんどが胎児の尿からできていて、胎児が羊水を飲み込み、それを尿として排出するという循環を繰り返して、羊水の量を保ちます。「ポッター症候群」は胎児の泌尿器系の疾患で、腎臓がないか、うまく形成されない、あるいは尿が出ないため、「羊水」が少なくなるのです。

「羊水」が少ない状態が長く続くと、お腹の中で胎児が圧迫され、その後の肺の形成にも影響がでるということです。胎児は「羊水を飲み込むこと」で肺呼吸の練習をし、肺を成熟させていきますが、羊水が少ないと、それができず、肺の形成が不十分になります。そのため生後、自発呼吸ができず、呼吸困難となります。

お腹の中ではお母さんからの酸素供給がありますが、生まれた瞬間から赤ちゃんは自力で呼吸をしなければなりません。ポッター症候群と診断されたほとんどの赤ちゃんは、お腹の中で亡くなるか、生まれても自力で呼吸ができず、48時間以内に亡くなるといわれていました。

母・恵理さんは赤ちゃんについて「生存率はほぼ0%」と医師から宣告を受けました。それでも恵理さんは「今、お腹の中の命を諦めることはできない」と産むことを決断。当時試験的に人工羊水の注入を行っていた病院に通い、その後、都内の病院で出産の日を迎えました。

「もしかしたら、(赤ちゃんが)泣かないかもって心配しながらの出産でした。でも、のんちゃんがお腹から出てきて、産声がしっかりと聞こえて、とてもうれしかった。のんちゃんが生きてる、望みがかなったって」 (母・恵理さん)

産声は、初めて赤ちゃんが呼吸を開始した合図です。お母さんのおなかに羊水を注入していたおかげか、のんちゃんは弱々しいながらも肺が機能していました。病院での手厚い医療サポートもあり、生存率0%と言われていたのんちゃんは、奇跡的に命をつなぐことができたのです。

■「奇跡の子」の成長

出生後、のんちゃんにはわずかに腎臓があることがわかり、尿も出すことができました。腎臓の機能を補助する腹膜透析など、母・恵理さんが自宅で医療的なケアをしながら、のんちゃんは1歳の誕生日を迎えました。さらに成長し、水遊びをしたり、子ども用の車に乗ったりして遊べるようになりました。次の目標は腎移植。両親が提供した腎臓を移植することで、透析が不要になり、もっと元気になれるかもしれないということでした。

腎臓移植をするにはある程度の体格が必要ですが、のんちゃんは去年、身長・体重の目標をクリア。おしゃべりも上手になり、元気に成長していました。今年はじめには、腎臓移植に向けた検査も本格的に始まる予定でしたが、その矢先、肺炎になってしまったのです。

■「どうか、肺移植を」両親の願い

腎臓が悪い状態でも、両親が提供する肺の移植手術にふみきり、のんちゃんを救ってくれる病院がないか。母・恵理さんと父・満さんは面会時間以外は必死に情報を集めています。

「見つけた情報をもとに、国内、海外の病院に問い合わせていますが、(腎臓が悪いと)難しい手術になるからと、病院がなかなか見つかりません」

「私も(のんちゃんが)脳死や心停止なら、理解ができるかもしれません。ただ、肺が救命不可能と言われる中で、本当に不可能なのか、何か良い方法はないのか、必死に探すのは、親として当たり前だと思うのです」(母・恵理さん)

■のんちゃんと肺移植の未来の会

肺移植手術をしてくれる病院がなかなか見つからず焦りが募る中、恵理さんの友人が「救う会(のんちゃんと肺移植の未来の会)」を立ち上げてくれたといいます。病院の情報を広く集めたり、もし移植が決まった際にすぐ動けるよう、準備を始めているそうです。

「本当に心の支え。絶望的な状況の中で私たち家族を支えてくれる友人たちがいるから、諦めないで、心折れずに頑張ることができています」(母・恵理さん)

■元気になったら…「たくさんたくさん抱きしめてあげたい」

のんちゃんの肺移植がかない、元気になったら――。母・恵理さんはこう話します。

「のんちゃんと、前みたいにおしゃべりがしたいな。たくさんたくさん褒めてあげたい。がんばったね、って。今は機械がついていて抱きしめることができないから、たくさんたくさん抱きしめてあげたいです」

「世界のどこかにいる勇敢なお医者さま。どうかどうか私たちに生体肺移植のチャンスを下さい」

のんちゃんはきょうも、懸命に生きています。