能登半島地震の影響続く 豊漁復活祈る ベニズワイガニ漁師密着
能登半島地震からあすで1年4か月です。
富山湾のベニズワイガニ漁は地震で海底地滑りが起きた後、今シーズンも不漁が続いています。
地震の影響から抜け出せない中それでも豊漁を願いながら沖に出続ける漁師に密着しました。
真っ赤な甲羅が特徴の「ベニズワイガニ」。
水深800メートルを超える海底から水揚げされるベニズワイガニは、富山湾の味覚として、味わう人の笑顔を繋いできました。
子ども「おいしい!」
カニ漁がシーズン終盤を迎えた今月25日。
未明の漁を終えた船が射水市の新湊漁港に戻ってきました。
ベニズワイガニが水揚げされていきます。
漁師の塩谷久雄さん(64)。浮かない表情で競りを見つめます。
ベニズワイガニ漁師 塩谷久雄さん
「わるい。ちょっと暖かくなってきたら良くなってくるなら喜ばんなんけど、良くなってこんもんね。うちらみたいに沖であっても、富山湾のど真ん中の沖であっても、近い定置網でも、変わってしまっとる。地震あってからね」
去年の元日に起きた能登半島地震。激しい揺れにより、富山湾の海底では、斜面が崩れ落ちる海底地滑りが発生しました。
「藍瓶」と呼ばれる海底が一気に深くなる谷にあるベニズワイガニの漁場も大きな被害を受けました。
海底に仕掛けていたカニかごやロープは流され、損害額は500万円以上に。
カニも地滑りによって土砂に埋まったり逃げたりしたとみられ、去年1年間の県内の漁獲量は227トン。
地震前のおととしの8割程度にとどまりました。
また、県水産研究所の調査ではカニの子ども、稚ガニの数が大幅に減ったことがわかっていて今後、影響が長期化する恐れがあります。
「はあ…」
失ったカニかごをいちから新たに作るのは、金銭的にも、体力的にも負担は小さくありません。
ベニズワイガニ漁師 塩谷久雄さん
「もちろん乗組員の給料、燃料代、エサ代、自分の生活費、諸々経費を省いたところからこのカニかごのお金を出さんなんで赤字になるかもしれんね。いまの漁獲量では厳しいです。だからもうちょっとカニが入ってくれんだら、成り立たんがやちゃね。経営がね」
(船の汽笛)「ポーー」
この日。塩谷さんは、ベニズワイガニ漁に代わって来月中旬からシーズンを迎えるバイ貝の漁にそなえて船をおろし、準備をしていました。
(工事の音)「ガガガガガ」
漁港には、地震で崩れた岸壁を直す鈍い音が響き渡ります。
あの日からあすで1年と4か月。
豊かな海の幸をもたらしてきた富山湾の藍瓶は、今も割れてしまったままです。
ベニズワイガニ漁師 塩谷久雄さん
「海の中も、直せるがなら良いがやけどね」
手を合わせる父親の久司さんから、親子2代で半世紀以上守り続けてきた新湊のベニズワイガニ漁。
これまで経験したことのない大きな壁に直面しています。
今月19日。不漁や海の事故があった翌年にだけ開催されるボンボコ祭が行われました。
祭りに向け漁師たちが集まる朝の漁港に、塩谷さんの姿もありました。
新湊の沖合、藍瓶のその上で、豊漁を願う神事が行われました。
釣り竿に見立てた弓を手に、舞い踊るのは同じ苦しみに向き合う仲間の漁師。
ベニズワイガニ漁師 塩谷久雄さん
「少しずつでもいいから、そんな一気に増えてこんでもね、少しずつでもいいからカニの漁獲量が増えてくれるのを、きょうも沖に出てボンボコ舞を見てそんなふうに思っとった。この春の漁はもう1か月切っとるけど、残りわずかになっとるけど、9月からの漁に期待して、漁を続けていきたいと思います」
地震の被害に翻弄される漁師たち。それでも沖に出続ける覚悟です。
新湊沖では、今月解禁されたシロエビの漁もこのところ水揚げが落ち込み、きのうから来月11日まで漁を休んでいます。