【特集】泳げないカバと飼育員の愛情物語 日本初の人工哺育で育ったカバのモモ30歳に《長崎》
▼お引越しは大騒動 カバとしての第1歩
2歳になったモモ、体重は生まれた時の10倍以上の350キロに。
カバ池に設けたモモの部屋の準備も整い、親カバのもとへ帰すことにしました。
カバ池までの道のりは500メートル程度でしたが、モモは気乗りしないのか、急に走り出したり、止まってしばらく動かなくなってしまったり。
3時間かけ、やっとの思いで無事に到着。
ただ、互いに「親子」だと気づくことはできませんでした。
▼水を利用して生活するのがカバ
(伊藤雅男さん)
「モモ(がいた)池は、ほとんど浸かるだけなので」
カバ池は、足の届かない水深2.2メートル。バイオパークのお客さんたちも、モモの泳ぎを見守ります。
(取材記者)
「モモちゃん、今、大きな池に足を踏み入れました」
泳ぐのは、ほぼ2年ぶり。伊藤さんに押され、水の中に入っていくと、
楽しそうに泳ぐモモ。やっぱり自己流の豪快な泳ぎ方でした。
(伊藤雅男さん)
「もう波立っちゃって、バタフライ状態。でも水を怖がらず、すんなり泳げたからよかった」
カバとしての生活もすっかりなじみ、伊藤さんと一緒に過ごす時間はさらに少なくなりました。
それでもモモが、伊藤さんを “親” だと思う気持ちは変わりません。
うれしそうに左右にしっぽを振って見せるのは、伊藤さんにだけです。
▼人に育てられたモモが結婚 伊藤さん、花嫁の父になる
2000年3月。
6歳になったモモは、お年頃。ついに結婚することになりました。
(結婚式)
「モモちゃん、ムーくん、結婚おめでとう」
お相手は、埼玉県の東武動物園からやって来た3つ年下のムーくん。
花嫁の父として、伊藤さんも正装です。
(伊藤雅男さん)
「ようやく終わったなという感じ。花嫁の父親ってこんなに忙しいのかなというぐらいバタバタしたので。でもうまく2頭は寄り添っているので、ほっとした」
結婚から間もなく、モモは妊娠。
陣痛が始まり、苦しむモモを見つめる伊藤さんに、ある不安がよぎります。
“人に育てられたモモが、ちゃんと水中で出産できるのか?”
陸から離れた場所に移動したモモ。しばらくすると、
(入園客)
「 生まれた!」
水中から顔を出したのは、小さな小さなカバの赤ちゃん。
伊藤さんはそっと涙をぬぐっていました。
お乳もしっかり与えました。モモはもう立派な母カバです。
赤ちゃんは、モモの名前をとって「ももたろう」と名付けられました。