【特集】泳げないカバと飼育員の愛情物語 日本初の人工哺育で育ったカバのモモ30歳に《長崎》
ただし、ももたろうはオス。このカバ池でずっと一緒には暮らせません。
まもなく1歳を迎える頃。
(来園客)
「かわいそうだね、中国にいくのは」
(伊藤雅男さん)
「今この親子を引き離すのは、ぼくらもしのびないんですが」
オスのカバは自分の群れをつくるため、親元を離れるのが宿命。
ももたろうは中国の動物園に旅立つことが決まっていました。
▼オスの宿命 子孫を残すための試練
ついに、その日がやってきました。
モモ専任の飼育担当を離れていた伊藤さんも、気になってカバ池に駆けつけていました。
ももたろうがモモのそばを少し離れたその時、2頭の間に仕切りの柵が下り、
(伊藤雅男さん)
「檻の仕切りが下りた瞬間、もうその境は彼らにとっては永遠に(親と子の)境。まだモモは気づいてないみたいだけど」
1歳のカバは、まだ母親のお乳を欲しがるぐらいの幼さです。
母親のモモを探して、暴れ出しました。
どこかにぶつかってケガをしないよう、飼育員たちは板で誘導します。
そして、ももたろうが移送用の箱の中に。
伊藤さんはたまらず、その場で泣き崩れることしかできませんでした。
なるべく“穏やかに”送り出してあげたかった。
▼まだ生まれない⁉ 心配なのはモモの体も
ももたろうが去った翌年、カバ池からうれしい知らせが。
モモが、新たな命を宿したのです。
(伊藤雅男さん)
「女の子が生まれてくればいいなと思ってますけど」
出産予定日は5月15日です。
6月に入り、お腹もかなり大きくなりましたが、生まれる気配は一向にありません。
毎朝5時、仕事前にカバ池へに通い、かかってくる電話にも敏感になる伊藤さん。
(伊藤雅男さん)
「生まれました?」
「(知り合いの牧場で) ポニーが生まれたって」
家族との話題も、やはりモモ。
(伊藤雅男さん)
「明日生まれるかな」
予定日から2か月たったある日、モモがエサを食べなくなったと連絡が入りました。
初めての出産よりも、横になったりウロウロ動き回ったり、苦しむモモ。
陣痛は8時間に及びました。
(飼育員)
「あっ、生まれた」