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【特集】人との関わりを忘れないために 昭和を描く人形作家・安部朱美さん 今にも動き出しそうな人形たちに込める思いとは? 鳥取県日南町

2025年6月3日 19:00
【特集】人との関わりを忘れないために 昭和を描く人形作家・安部朱美さん 今にも動き出しそうな人形たちに込める思いとは? 鳥取県日南町

2025年は昭和元年から数えてちょうど100年。そのことに合わせて、日南町で開かれている企画展には、昭和の温かさを描いた人形たちが展示されています。

駄菓子屋の前で遊ぶ子供たちや、小さなちゃぶ台を囲んだ家族団らんの様子。懐かしくも温かな昭和の風景を表現した創作人形たちが並ぶのは、鳥取県日南町の美術館。

2025年が「昭和100年」であることを記念し、南部町出身の人形作家・安部朱美さんと、ペーパークラフト作家の太田隆司さんが手がけた作品、あわせて97点が展示されています。

取材した5月18日は、人形作家の安部さんによるギャラリートークが開催され、多くの人が作品に込められた思いに耳を傾けていました。

安部朱美 さん
「デッサンは一切しません。作りながら一人増えるごとに一体増えるごとに物語が広がっていく」

44年前から、独自の技法で、ジャンルを問わず様々な人形を作っていた安部さん。2007年、昭和の親子の和やかな風景を思い描きながら手がけた作品、『かあちゃんよんで』が皇室ゆかりの人形展の大賞を受賞。昭和を描いた人形作りを始めるきっかけになりました。

安部さんが手がける人形たちは、見る人々の懐かしい記憶を呼び起こします。

訪れた人
「日々忙しくてバタバタするんですけど、昭和の昔の子供のころの風景が目に浮かぶような感じで。おじいちゃんおばあちゃんがいて、家族みんながいて。今もそれあるんですけど、懐かしいなって。とても良かったです」

生き生きとした暖かさを表現する安倍さん。これらの人形はどのように作られているのでしょうか。米子市にある自宅を訪ね、制作風景を見せてもらいました。

安部朱美 さん
「いろんなものを集めています。何かに使えるかな、と。私にとっては宝の山です」

安部さんの自宅には、様々な和紙や糸、布がストックされていました。

安部さんが人形作りに出会ったのは30歳を過ぎてから。技法はもちろん、材料の使い方も分からず、まったくの手探り状態。使えそうな材料は全て試しながら、独自の作り方を生み出してきました。

安部朱美 さん
「上に置いてローラーで伸ばします。こういう模様がつきますね」

麻布の切れ端を粘土に押し当て、人形の服の繊維や模様を表現していました。

人形の髪の毛も、独自に生み出したユニークな方法で表現。

安部朱美 さん
「これはにんにくしぼりなんですけど」

にんにくをつぶす道具で細長く絞り出した粘土を、人形の髪の毛として表現。他にも、和紙のこよりを何本も作って張り付け、髪の毛の束を表現したものや、細かい砂と粘土を混ぜ合わせ、坊主頭を作るなど、髪の毛だけで何種類もの方法を生み出しました。

今にも動き出しそうな人形たち。その表情や動きの参考にしているのは。

安部朱美 さん
「孫です。もう今は大きくなってますけど。ちょっと迷ったときに、表情とか仕草とか、いろいろめくって参考にすることがあります。ぺちゃんと座っている足の裏とか。これは想像だけじゃなかなかできないです」

大切な孫たちの写真。切り取られた一瞬の表情や動きを参考に、生き生きとした子供の柔らかさを表現していました。

18年もの間、昭和の人々や情景をテーマに人形を作り続けてきた安部さん。今もなお、昭和を描き続ける、その理由とは。

安部朱美 さん
「(今の時代は)人とのかかわりが希薄になったってよく言われますよね。小学生なんですけど、見ていただいて「家族団らんってこういうことか」ってつぶやいたんですね、人とのつながりとか関わりとか、お互いに助け合いながら絆を紡いでいた時代、そういう時代の良さを知っている私たちが何か出来ることがない、人形に語らせたい」

人とのつながり、関わりを忘れないでほしい。安部さんが願いと共に命を吹き込む人形たちには、今の時代が忘れかけた温かさが宿り続けます。

最終更新日:2025年6月3日 19:00