「許してもらう条件が坊主」元師匠からのパワハラで活動休止も裁判で勝訴 この秋、真打に昇進する「吉原馬雀」 笑いの裏に隠された苦悩と情熱に迫る(後編)
2022年2月、馬雀は事実上の破門となり、活動休止を余儀なくされた。
その8か月後の2022年10月、馬雀の行動に落語界が震撼した。馬雀は元師匠からの指導が人権侵害にあたるとして、東京地方裁判所に提訴したのだ。それは落語家生命を賭けての決断だった。
吉原馬雀:
自分も40歳を過ぎたので、もう年も年だし、人生あと半分って考えたら、これはもう「ちょっとおかしいんじゃないか」って声を上げようかなと思って。
息子が裁判を起こしたことについて両親は、「パワハラを受けていたことにショックだった。心配はあった。大丈夫なのかって。」と、当時を振り返る。
2024年1月、東京地方裁判所は、元師匠の指導における一部の言動は人権侵害にあたると判断。元師匠に対し賠償金を支払うことを命じ、馬雀の勝訴というかたちで一連の騒動の幕が閉じた。
前座での厳しい修行を乗り越え、二ツ目で腕を磨き、真打寸前まできていた馬雀にとって、元師匠を訴えることは苦渋の決断だった。
そんな馬雀に声をかけたのが、現在の師匠、吉原朝馬(よしわら ちょうば)だった。
吉原朝馬師匠:
カラスでも白といったら白にならなきゃいけないという、そういう伝統というかね、落語界の悪しき伝統があった。私もそれがおかしいなと思っていた。落語界、始まって以来ですからね、師匠を訴えるというのは。だからその勇気に賛同したというか、打たれたところはあった。
吉原馬雀:
師匠がいないと、ほんと私、真打になれてない。これは確実に言える。
落語仲間が裁判を傍聴し、書籍化
この日は東京都阿佐ヶ谷のライブハウスで前座時代からの落語仲間・三遊亭はらしょうと落語会を開いていた。
今回の裁判を傍聴し、傍で見守っていたはらしょうは、この一連の騒動を小説にした本を出版した。
落語仲間 三遊亭はらしょう:
パワハラって概念もなかったので、落語界はそういう世界だと、特殊な世界だと思っていた。落語の歴史上、初めてじゃないですか。落語史に残る出来事だと思う。だから今後の落語の世界にこれを形として残したい。