【検証】保守王国で”まさかの一敗“ 衆院和歌山補選「自民の誤算」二階氏と世耕氏、主導権争いの行方

岸田首相を狙った襲撃事件で全国的に注目を集めた衆議院和歌山1区補選は、関西で旋風を起こし続ける日本維新の会が勝利した。二階元幹事長ら閣僚経験者がそろう自民党は「過去最大の組織戦」(県連関係者)で臨んだが、なぜ苦杯をなめる結果に終わったのか。検証を進めると、大物同士の思惑も絡んだいくつかの"誤算"が浮かび上がる。(取材=髙橋 克哉・平村 香月・神田 貴央)
笑顔で抱負の一方で異例の“取材拒否”
「自民党の古い政治でなく新しい政治をしてくれる人に任せたいという皆さんの思いがこの結果につながった」維新新人の前和歌山市議、林佑美氏(41)は当選から一夜明けた24日朝、和歌山市内で笑顔で抱負を語った。
そのころ、敗れた自民公認の元衆議院議員、門博文氏(57)も和歌山市内の街頭で有権者に挨拶をしていた。しかし、異例ともいえる「取材拒否」。
2人の明暗を分けたのは、何だったのだろうか。
支援者らは「市議選は野党、衆院選は自民」の方針に難色
「そんなこと言えないって」
事件前の今月12日、和歌山市内で開かれた岸本周平知事の後援会が主催する門氏の「個人演説会」。岸本氏が門氏への支援を呼びかけると、参加者からはこんな声が漏れた。
岸本氏は和歌山1区の野党候補として2012年以降4回連続で門氏と対決し、4連勝を収めていた。自民から見れば「長年の憎きライバル」(自民県連関係者)だ。しかし、去年の知事選で自民党が岸本氏を推薦したことから両者の関係は雪解けし、今回の補選では「義理返し」で自らの支持者と門氏を引き合わせたのだ。
ところが、自民党に誤算が生じる。補選と同じ日に投開票の和歌山市議選の存在だ。岸本氏の後援会は、出身高校の同窓生と労組系の支持者が入り混じり「少なく見積もっても5万票はある」(岸本後援会幹部)。このうち野党を支持するグループが、「市議選は野党、衆院選は自民」の方針に難色を示したのだ。後援会幹部の一人は「そもそも岸本氏を当選させる目的で集まる組織。それ以外のミッションでは動けないし動かない」と語る。
こうした傾向は、読売テレビが読売新聞と共同実施した当日の出口調査でも顕著に現れた。2021年衆院選で岸本氏を支持した人が今回誰に投票したかを尋ねると、門氏が約3割なのに対して維新の林氏は約6割に達していた。
門氏と維新林氏の得票差は6000票余り。「岸本票」の行方が結果に影響した可能性が高い。
世耕氏と二階氏の「主導権争い」
一方、自民党内からは、そもそも小選挙区で当選経験のない門氏を擁立した自民党和歌山県連の責任を問う声も出始めている。複数の関係者によると、県連の実力者、二階俊博元幹事長は当初、県選出の参議院議員の鶴保庸介元沖縄北方担当相を擁立する意向だった。鶴保氏は新進党時代から二階氏と行動を共にしてきた、"腹心"とも言える存在だ。
だがその方針に異論を挟んだのが、もう一人の実力者、世耕弘成参院幹事長だった。「去年の参院選で当選したばかりの鶴保氏ではなく、1区で"浪人中"の門氏を出すのが筋だ」との考えで、鶴保、門の両氏がいずれも二階派所属だったことや、どちらが出馬しても優勢という党の調査結果などを踏まえて、二階氏が受け入れた経緯がある。
二階氏と世耕氏は、去年の知事選の候補者擁立を巡っても、独自候補の擁立に動いた世耕氏の動きを二階氏がひっくり返して最終的に岸本氏支持でまとまるなど、主導権を握るさや当てが繰り広げられてきた。自民県連内では、かねてから衆議院への鞍替えを模索する世耕氏と、それを阻止したい二階氏の「主導権争い」と見る向きが強い。
「和歌山もいずれ維新に飲み込まれる」
県選出の国会議員秘書の一人は「補選期間中は"一時休戦"で、2人とも全力で門氏の支援をよびかけていたが、きょうからまた火花を散らせるだろう」とみる。関西が地盤の自民重鎮は、こう危機感をあらわにする。「和歌山市議選で自民候補は全員当選したのに、なぜ門さんは勝てなかったのか。自分たちの思惑を優先して、勝てない候補を立てた2人の責任は致命的だ。こんなことを繰り返していては、和歌山もいずれ維新に飲み込まれる。」