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【検証】進まない耐震化、巨大地震で長期断水の恐れ…災害が“起きてから”では遅い日本の水道の現状

2023年6月28日 16:00
【検証】進まない耐震化、巨大地震で長期断水の恐れ…災害が“起きてから”では遅い日本の水道の現状
大阪北部地震発生当日の大阪府高槻市(2018年)

 最大震度6弱を観測し6人が死亡した大阪北部地震から6月で5年を迎えました。この地震では、水道管の破裂による断水の被害も大きく、3市で21万人に影響が出ました(水圧の低下も含める)。

 蛇口をひねれば出ることがあたり前になっている水ですが、地下に張り巡らされた水道管は、老朽化が進み、強い揺れで破壊される可能性が高くなっています。

 巨大地震の発生確率が高まる中、命をつなぐ水は届くのでしょうか。

 日本全国の地下に張り巡らされた水道管の総延長は、約74万キロ。地球18周分にも及びます。

 そのうち主要な管である「基幹管路」の総延長は、11万4千キロ。基幹管路は、水源から浄水場へと送る役割を持つなど社会活動を維持するのに欠かせないものですが、地震に強い耐震管となっている割合・耐震化率は、全国で27.4%にとどまっています。(2021年度末:厚生労働省資料より)

 この数字に、国も「依然として低い状況にある」としています。

 高度成長期に整備された水道インフラは、ここにきて“老朽化”が進み、地震に弱い管が今もなお使われ続けています。
 
 ■大都市圏別の耐震管率
  東京都:44.7%
  神奈川県:57.6%
  愛知県:44.0%
  大阪府:38.9%
  福岡県:20.2%
 (耐震管:地震の際でも継ぎ目の接合部分が離脱しない構造となっている管。これまでの地震でも、管と管の継ぎ目が破断し、断水するケースが多い)

巨大地震で想定される広範囲の断水

 静岡から九州にかけて広がる南海トラフを震源とする巨大地震は、全国で3570万人に断水をもたらし、東海、近畿、四国地方の断水率は、最大で90%を超えると想定されています。

 特に大阪では、水道管の老朽化は深刻です。60年も前に埋められた水道管が、基幹管路として今もなお使われていて、専門家は地震による断水被害に注意を呼びかけています。

(神戸大学大学院 市民工学専攻 鍬田泰子准教授)
「脆弱な管路が残っているので南海トラフが起こったときは、大きな被害になるだろうと思う。これまでどおりの災害復旧では管路の復旧が進まないだろうと。被害量は同じでも長期にわたって断水期間が続くと考えられる」

 大阪北部地震後、被災した各自治体は水道管の耐震化を進めていますが、思うようには進んでいないのが実状です。

 断水被害の大きかった高槻市を例にとると、基幹管路の耐震管は、2017年度末で31.9%、それが2021年度末で34.3%と、飛躍定な伸びは言えません。

 全国的にも状況は同じで、高い壁となっているのが、“財政のひっ迫”です。

 水道事業は、法律で独立採算制がとられ、収益の多くが水道利用者から支払われる水道料金です。集まった水道料金から、職員の人件費や施設の維持管理費が賄われていますが、人口の減少により、多くの自治体で水道の利用量が減り収入が落ち込んでいます。

 総務省の資料では、全国の水道事業者の約10%が赤字で、施設の耐震化工事に充てられる費用を捻出するのが難しい状況になっているのです。

 今後も、人口減少により財政は厳しさをますとみられています。

水道料金の値上げは不可避か

 大阪府北部・山間の町、豊能町は、高齢化により人口の減少が進み水道の使用量が激減しました。水道料金は府内で最も高いものの、料金収入が減ったため水道事業は赤字となっています。

 水道施設の耐震化を進める必要はありますが、費用のねん出が困難になり、町は、平均15%ほどの料金値上げに踏み切りました。

 人口の多い大阪市では、水道事業は20年間黒字が続いていますが、現在の料金水準では、あと5年もすれば赤字になり、防災対策の費用を十分に絞り出せない恐れがあるとシミュレーションされています。

 各自治体、職員数を減らすなどコストカットは進めているものの、収支の改善はまったなしの状況で、民間の研究グループの調査では、2043年までに90%以上の事業体で料金の値上げが必要となるとの試算が出ています。

 実際、読売テレビが南海トラフ巨大地震で被災すると想定される静岡市や和歌山市、高知市など6つの自治体にアンケート調査を行ったところ、2つの自治体がすでに料金の値上げを行っていて(消費増税によるものを除く)、4つの自治体が「地震対策を進めるには料金の値上げが必要」と回答しました。

必要なのは住民の理解

 電気代、ガス代、高速道路料金など民間企業が担う他のインフラ事業は、料金の値上げを適宜行ってきました。

 一方で、多くの自治体で水道料金は大きな改定はあまり行われてきませんでした。

 水道は主に自治体の事業ということもあり、水道料金の改定には、地元議会の承認が必要となるケースが多く、地元住民の理解を得ることが欠かせません。大阪のある自治体では、料金の値上げ提案について「住民の理解が進んでいない」と議会が否決したケースもあります。

 専門家は、地震対策を進める上で水道料金の値上げは不可避で、
事業者には丁寧な説明が求められると指摘します。

(神戸大学大学院 市民工学専攻 鍬田泰子准教授)
「水道の料金をほとんど全国的にも上げてきていないんです。水道事業そのものの経営努力をしてきたというのが現状だと思います。だけど、それはある意味で限界にきています。今後は、住民に理解をしてもらって適正な価格にして維持更新していくことが求められる」

 ある自治体の関係者は、「災害が起きてからやっと動き出すというのが日本の特徴。起きる前に対策をするべき」と話します。

 近い将来、起こるとされる巨大地震。その時、水を止めないために、事業者と住民が一丸となり対策を進めるための議論を前進させていかなくてはいけません。