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【どうなる】“笑い飯”のネタでもおなじみ 奈良「民俗博物館」増えすぎた?大量の収蔵品どこまで保護すべき? 割れる議論 3Dデジタル資料化めざす“奈良モデル”構築を掲げるが…

2024年11月23日 12:00
【どうなる】“笑い飯”のネタでもおなじみ 奈良「民俗博物館」増えすぎた?大量の収蔵品どこまで保護すべき? 割れる議論 3Dデジタル資料化めざす“奈良モデル”構築を掲げるが…
廃校となった学校の校舎に保管されている大量の“踏車”

 7月、奈良県大和郡山市にある奈良県立民俗博物館が一時休館しました。この博物館は、人気漫才コンビ「笑い飯」の博物館ネタのモデルになった博物館ともいわれています。その博物館が突如、休館に…背景にあったのは、県民から引き受けてきた大量の「民俗資料」でした。奈良県の山下真知事がこれら大量の収蔵品について「価値のあるものだけを残し、それ以外は廃棄処分を検討せざるを得ない」と言ったことから、議論が紛糾。地方自治体がもつ限られた財源のなかで資料をどこまで保存すべきか、県外からも様々な意見が寄せられました。

 議論の紛糾を受け、奈良県は民俗資料を3次元でデジタル計測しデータ化をめざすと発表、「民俗資料の収集・保存 奈良モデル」の策定を急ぐこととなり、このほど第1回の検討会が開かれました。

 これまで文化財は、日本の歴史を振り返る貴重な資料でありながら、一方で、その保存や調査が負担とされ「お荷物」とみられてきたことも。果たして奈良県は、全国自治体の手本となるような「文化財資料の保存活用」モデルを構築できるのでしょうか?(報告:石川千智)

■閉館発表後に行われた知事会見「価値のあるものだけを残して、それ以外のものは廃棄処分」館内だけでの保存を検討

 奈良県大和郡山市にある奈良県立民俗博物館。開館は今から50年前の1974年、当初の資料数は7566点でした。収蔵品は多くが農業・漁業・林業などで使用していた道具で、中には大正から昭和の生活を窺える家電などもあります。

 博物館では、高度経済成長期に日本人の生活様式が大きく変化したことをきっかけに、そのままだと捨てられてしまう「道具」の資料収集に積極的に取り組みました。収納品は増え続け、2008年に廃校となった高田東高校跡地に仮置きを始め、2014年には郡山土木事務所跡地にも仮置きを始めるに至ったこともあり、翌2015年頃からは、あまり資料を受け入れないようにしてきました。

 7月、まだ開館している博物館を訪れ、館内の現状について取材しました。館内は老朽化が進み、エアコンが故障。猛暑のなか少しでも来館者に涼んでもらおうと、展示スペースに氷柱を置き当座をしのいでいました。この時点で館内に展示されていたのは約3000点、中には国や県指定の文化財も含まれていました。

 報道で博物館の「一時閉館」を知り、急遽駆けつけた来館者も。「こういう現物があって初めて、こういうこと(道具・活用法)なんだと分かることがあると思うので、子どもの教育にはとても大事。無くしたらもう二度と取り返せない」と資料の保存を望む声が聴かれました。

 記者は博物館の高橋史弥学芸員に現状の資料状況についてインタビューしました。高橋学芸員によると、似たような資料があったとしても、一点一点わずかな形状の違いがあることや、そうした形状の変化がなぜ起こったのか突き詰めていくと、地域の風土など特色が見えてくるとの解説が。だからこそ、似たような資料でも廃棄することなく保管してきたと言い「資料というのは複数点おさえておく、そして比較していくことによって、地域性が分かるというような特徴があります」との答えでした。

 一方で、高橋学芸員は資料の“整理”について「民俗博物館の資料は、本当に大切なものが集まっています。ただ容量というのは、やはり限られてまいります。これから取捨選別していかないと、とは思っています。その判断を、複数の有識者の方に話を聞いてやっていきたい」と語りました。

 博物館はその後、7月16日に一時閉館となりました。“再開”は2027年度を予定しています。

■「民俗資料の収集・保存 奈良モデル」構築めざす 全ての資料を3Dデジタルデータ化するというが…データ化には巨額の費用が?

 一時閉館後に開かれた定例会見で山下知事は、全国的にも課題となっている“博物館の資料保存問題”を解決すべく、新たに「民俗資料の収集・保存 奈良モデル」を策定すると発表しました。

 知事は「奈良モデル」について、まず「民俗博物館の全資料4万5000点について、3Dデジタルアーカイブ化(3次元のデータをとり保存活用)する」と掲げ、「3D画像で、その収蔵品を保存、保管していくことになります。こうすれば(収蔵)スペースは要らないわけです」と解決案を上げました。

 また3Dのデータをとった後、有識者らで構成する委員会で収集ルールを定め、ルールに則って『民俗博物館で保存しない』と判断した資料については、大きな破損がなければ市町村等での保存・展示を検討。破損があるものについては民間での有効活用を検討する考えを示しました。それでもなお、受け入れ先が見つからない場合は資料を廃棄していくプロセスに入るという事です。

 4万5000点という膨大な量の資料を整理するには、時間や労力が必要であることから、民俗博物館に在籍する3人の学芸員以外にも大学生や博物館・ボランティアの協力を得て、今後整理を促進していく考えを明かしました。

 ただ読売テレビが複数の文化財関連企業を取材したところ、文化財を3Dスキャンするには1件当たり約20~30万円ほどの費用が必要と話す企業が多くありました。単純計算すると90億円もの費用が必要となりますが、今年度、奈良県の文化財の全体予算は20億円足らず。どの程度のデータが必要かにもよりますが、実際に全収蔵品のデータをとりきれるのか疑問は残ります。

■第一回「民俗資料収集・保存方針等検討委員会」で語られたのは

 11月18日に初会合が開かれた奈良県の「民俗資料収集・保存方針等検討委員会」には、大学や博物館などの研究員5人が委員として出席しました。

 会議は非公開で行われ、第1回は、民俗博物館の状況を改めて共有した後、収集のルールを見直し、資料の保存基準や博物館から資料を「除く」際の手続きなど、新たに方針を決めることを確認したということです。

 今回立案する「奈良モデル」では、収蔵品を手放す「除籍」や、「廃棄」の可能性も含まれます。しかし委員長になった国立民俗博物館の日髙真吾教授は、「除籍については博物館の中でも一番最後のプロセスにあたる。その認識の元、県立民俗博物館で整理から始めていかないと本格的な議論にはならない」と第一回の会議で確認したということです。

 また「奈良モデル」の前提となる「3Dデジタルアーカイブ化」についても、どのような形で活用するのか、まず議論をする必要があるとのことです。2回目の会議は来年1月の予定で、来年には収集・保存の方針を決め、その後、運用を開始する予定です。

 2027年度にリニューアルオープンを目指す奈良県立民俗博物館。はたして全国の「ロールモデル」として生まれ変わることはできるでしょうか?

最終更新日:2024年11月23日 12:00