北朝鮮は何のために日本人を拉致する必要があったのか
なぜ日本人を連れ去る必要があったのか。拉致は1970年代から80年代にかけて集中している。北朝鮮の狙いはあくまで韓国への工作だったとされる。韓国に潜入し工作活動をするためには、工作員を送り込む必要があったが、北朝鮮から韓国に工作員を送り込むのは困難だった。そこで編み出されたのが、日本人になりすまし韓国に入国するという方法だった。実在の日本人の身分や戸籍ごと乗っ取りその人物になり替わる、背乗り(はいのり)とよばれるケースもあれば、工作員を日本人に仕立てるため日本語や日本の習慣を身につけさせる教育係として日本人が必要になったケースもなどがある。
「背乗り」・・・戸籍ごと乗っ取り日本人として活動
背乗り(はいのり)とよばれる身分や戸籍ごと乗っ取り日本人に成りすましたケースとして有名なのは辛光洙(シン・ガンス)容疑者である。1980年6月に原敕晁(はらただあき)さんを拉致し、その後4年半もの間、原敕晁として過ごした。辛光洙は日本生まれの在日朝鮮人で10代後半まで日本に住んでおり日本語は流ちょうだったという。原さんを拉致した後には原さんの戸籍を横領し、パスポートを取得、本人に成りすまして渡航を繰り返し、韓国や日本で工作活動を続けていた。
工作員を日本人化する教育係として
背乗りだけが日本人拉致の目的ではない。1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯で北朝鮮の工作員・金賢姫(キム・ヒョンヒ)元死刑囚の証言がその実態を浮き彫りにさせた。「私が一緒になって日本語教育を受けた李恩恵(リ・ウネ)という女性は日本から来た女性です」と語ったのだ。リ・ウネという女 性は1978年に東京で拉致された田口八重子さんとみられ、北朝鮮の工作員に、日本の歌謡曲や文化、化粧の仕方や言葉遣いなどを教えていたという。また横田めぐみさんについても、「招待所」と呼ばれる隔離された施設で工作員の女と共同生活をさせられ、日本語などを教えていたと証言している。
あの事件のグループの同志獲得計画のため
北朝鮮には現在も「よど号」ハイジャック事件のメンバーがかくまわれている。「よど号」ハイジャック事件」は、1970年に活動家9人が、日本航空351便・通称「よど号」を乗っ取り北朝鮮に入国した事件。このメンバーらがグループの拡大のために日本人を拉致したケースもある。1983年にロンドンに留学中、姿を消した有本恵子さんがその被害者だとされる。2002年、よど号ハイジャック事件のメンバーの元妻が「私がロンドンにいる有本恵子さんをだまして北朝鮮に連れていきました」と拉致に関与したことを証言している。他にもヨーロッパ旅行中や留学中だった石岡亨さんや松木薫さんも声をかけられ北朝鮮に連れて行かれたとみられ、石岡さんと一緒に旅行した男性がスペインのバルセロナで撮影した写真には、別のよど号犯の妻2人が写っており、証拠の一つになっている。
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