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当直明けで深夜まで…医師の働き方に「メス」 命を守り残業も減らす医療現場の苦悩<宮城・仙台>

2024年5月5日 9:00
当直明けで深夜まで…医師の働き方に「メス」 命を守り残業も減らす医療現場の苦悩<宮城・仙台>

勤務医の労働時間に上限を設ける「医師の働き方改革」が今月から始まりました。これまで実質的に「青天井」となっていた勤務医の働き方の変化は私たちの生活にどのような影響があるのか。仙台医療センターの外科医の現場に密着しました。

救急搬送や災害時の医療の要となる、宮城野区の仙台医療センター。平均して1か月あたり800人以上の救急患者を受け入れています。

4年目の外科医大槻俊文さん(27)です。日によっては10時間手術室にこもり、帰るのは日付が変わるころということも珍しくないといいます。
□大槻医師
「朝から夕方夜まで手術室にこもりっきり。病棟で忙しく働く日もある。」

「命の砦」となる医療の現場でも今月から「働き方改革」が始まりました。
これまで実質的に「青天井」となっていた医師の時間外労働について一般的な勤務医は年間960時間、研修や地域医療でやむを得ない場合は1860時間が上限となりました。

大槻さんは午前8時前に出勤。出勤時間はIDカードをタッチした記録で管理されています。着替えを済ませるとICU=集中治療室の回診へ。ICUの患者は外科や内科など複数の分野にまたがることが多く、病状を全体で共有するためにそれぞれの科に所属する医師、20人ほどが一緒に動きます。

その後は自分が担当する外科部門のミーティング。チームのトップである総合外科部長を始め出番の医師全員が顔をそろえ、患者の病状や手術の予定などについて共有し、大槻さんの1日が始まります

外科医として1日あたり平均3件ほどの手術に携わるほか、病室に足を運び、およそ20人ほどの術後ケアも行います。そして、一日の勤務を終えると一般的な企業と同じくパソコンに勤務時間を入力。

□大槻医師
「決められた労働時間が書いてあって、ここが打刻した時間。差があるときには時間外開始時間終了時間を書くようにしている。」
残業を減らすように意識しているものの、月の時間外労働は上限の100時間に迫ることも多いのが現実。

大きな要因の1つは当直勤務で、仙台医療センターでは朝に出勤して翌日の昼頃まで働くシフトです。
夜間に十分な睡眠がとれた場合は労基署が定める「宿日直許可」という制度を使い、「当直」時間帯の勤務時間がゼロになりますが、救急患者が多い仙台医療センターで当てはまることはほとんどありません。

24時間体制で命と向き合う医療現場に労働時間の上限というルールがなじむのか。現場の医師からは違和感を訴える声もあるといいます。

□仙台医療センター 総合外科部長 島村弘宗さん
「率直に言うと若い先生は結構不満に思っているところもあるというのが正直なところ。やる気のある先生はどんどんいろんなことをやりたい。患者もいっぱいみたいわけです。(労働時間の)天井を決めてしまうのも時間を気にして診療しなきゃいけないというのも堅苦しい」

患者と向き合いたいという思いと、長時間労働を防ぐ今回の法改正を両立するために。仙台医療センターが重視するのが「チーム制の医療」です。
医師がチームで回診を行い患者の情報を共有することで主治医でない医師も対応しやすくしようという仕組み。
また、夜間の緊急手術ではこれまで若手に偏りがちだった「呼び出し当番」をベテランも含めてローテーションしています。

その一方で、医療センターよりも小さい規模の病院にとっては、今回の働き方改革の影響がもっと大きくなる恐れがあると言います。

□仙台医療センター 総合外科部長 島村弘宗さん
「うちのような規模の大きな病院から診療援助という形で中小の病院に当直のお手伝いにいっている。(時間外労働の上限で)病院には今後出せませんということが出てくる可能性がある。そうなると中小の病院は当直体制維持できなくなる」

課題も抱えながら始まった医師の働き方改革。現場の医師は働き方を模索しながら命と向き合っています。

□大槻医師
「手術終わって元気になりましたありがとうございましたと言って帰られたときはやりがいを感じる。患者を元気にして元の生活に戻すのが仕事」