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【特集】『パパ』だけど『ママ』になりました 「簡単に人は死ぬ。だったら、後悔のないように…」テレビ局の特派員として取材する中で抱いた想い あるトランス女性が守ると決めた家族・未来のために、今できること―

2024年5月25日 11:00
【特集】『パパ』だけど『ママ』になりました 「簡単に人は死ぬ。だったら、後悔のないように…」テレビ局の特派員として取材する中で抱いた想い あるトランス女性が守ると決めた家族・未来のために、今できること―
「日本テレビ」映画プロデューサー・谷生俊美さん

 「日本テレビ」で映画プロデューサーを務める谷生俊美さん(50)は、戸籍上は父親ですが、“ママ”として子どもを育てるトランスジェンダー女性です。家族は、パートナーの女性“かーちゃん”と、娘のももちゃん―ちょっと珍しい3人家族。

(「日本テレビ」映画プロデューサー・谷生俊美さん)
「男性として生まれて、女の子になりたいと思いながら道筋の見えなかった大人が、女性として生きようと40歳手前で決意して、いかにしてママとして我が子を抱くに至ったかのお話です」

 葛藤や悩みを抱えながらも歩む、谷生さんが伝えたい想いとは―。

「私は、誰にも恥ずかしくないように生きている」女の子になる夢を見ていた青年が、自らの気付きで切り開いた“生き方”

 谷生さんは男の子として育ち、19歳まで兵庫・神戸で過ごしました。

Q.女性になりたいという気持ちが芽生えた、きっかけは?
(谷生さん)
「きっかけは覚えていないけど、物心ついた時には、女の子になる夢を見ていました。すごく小さい時から、トンネルをくぐったら女の子になった夢を見ていた。幼稚園の時ぐらいじゃないかな。それは、ずっとありましたね。でも、どうすればいいかわからないし…」

 県内有数の進学校に進み、体育祭でリーダーを務めるなど、男子の中で中心的な人物として過ごしましたが、周囲に“思い”を打ち明けることはありませんでした。

(谷生さん)
「言っても理解されないし、性を変えるとかはできるとも思わないし、術もわからないし、ロールモデルも見つからないし…。一般的に良い大学に行って、良い会社に入って、お金持ちになりたいとか、そんなことは思っていました」

 その後、「日本テレビ」に、男性・谷生俊治として入社。報道記者として、30代でエジプトに駐在。戦争やテロといった危険な中東情勢と隣り合わせの日々の中で、“気付いたこと”がありました。

(谷生さん)
「あっという間に、命って奪われるんですよ。簡単に人は死ぬんです。そういうのをいっぱい見て、『人間って本当にあっという間に死んじゃうんだな』と思ったんです。だったら、『後悔がないように生きないといけない』と思ったのが、カイロでの一つの大きな気付きでした」

 そして、帰国後―。

 「日本テレビ」の報道番組『news zero』に、コメンテーターとして出演。

(谷生さん/2018年、『news zero』で)
「谷生俊美です。『日本テレビ』には男性として入社しまして、現在はトランスジェンダー女性として、映画と向き合って7年目となります」

 39歳の時、女性にトランスして、『谷生俊美』として生きていくことを決意―。広く世間にカミングアウトしたのです。

(谷生さん)
「私は、誰にも恥ずかしくないように生きているし。女性と男性は、見えている世界がこんなに違うんだということに気付いて、そこからいろんな気付きになりました」

「子どもを持てる可能性は、ほぼなかった」それでも生まれてきてくれた“奇跡の子”、ももちゃん!パパだけどママ…書き記したのは、心から伝えたい“ある想い”―

 谷生さんは10年前、パートナーの女性・ゆりさん(仮名)と結婚しました。ゆりさんは、谷生さんが男性として過ごしていた時からの知り合いです。

Q.トランスしたことに、驚きは?
(谷生さんのパートナー・ゆりさん)
「驚きはありました。完全にフリフリしたブラウスを着ていたり、最初は違和感というか、自分の中で『どう消化していけばいいのか』というのはあった。結局、中身は変わっていないので、その人を尊敬したり好きだったりしているから、時間をかけながら、気持ちの整理がついていっているんだろうなと、振り返ると思います」

 互いを受け入れ、子どもを持ちたいと思った二人。しかし、谷生さんが女性ホルモンを摂取していたことが、大きな壁になりました。

(谷生さん)
「“自分の実子を持つという選択肢”を自ら消すホルモンを摂取していたので。始めたときに、その可能性は完全に消したつもりだったし、それは重い決断でした。ただ、子どもを持てる可能性があるのかなと調べたら、ほぼなかったんですけど、わずかな可能性があるというので、いろんな負担もあるんですけど、頑張ってみようかということで…」

 2019年、不妊治療の末に生まれたのが、ももちゃん。それは家族にとって、奇跡に近い出来事でした。

(谷生さん/2019年、病院で)
「ももちゃん、初めて抱っこします」
(ゆりさん/2019年、病院で)
「どうですか、感想は?」
(谷生さん/2019年、病院で)
「……なんかもう、言葉がないねぇ」
(ゆりさん/2019年、病院で)
「ももちゃん、見てるよ」
(谷生さん/2019年、病院で)
「…パパだけど、ママだからね。“ママ(谷生さん)”と“かーちゃん(ゆりさん)”で、守るからね。君を、いっぱい愛してあげるからね」

 この日、家族で向かったのは、ゆりさんの実家です。ゆりさんの両親は、結婚を前向きに受け入れてくれました。

(ゆりさんの母)
「会うまでは、反対していた。でも、自分たちで強い気持ちで決めていたから、周りがそんなに言うこともなかった」
(ゆりさんの父)
「“ちょっと見”が違うよね。ただ、そう思っただけのことであって、抵抗はなかったね」

 でも、ももちゃんの今後については、不安が募ります。

(ゆりさん父親)
「多分、いじめに遭うと思う。これから、そこをどういうふうにカバーしていけるか。説明しても、まだわからないと思うし、そこだけ心配」
(谷生さん)
「私も心配なんですよ。そこは一番気にしています。これから『ももちゃんのママって、本当はパパなんでしょ』みたいなことも絶対あるし、『そうだよ、そういう人もいるんだよ』と言えるような環境を、どうやって作ってあげられるか。あの子をいかに守るか―、それしか考えていないです」

 周りと違った家族の形で、嫌な思いをするかもしれない―。思春期のももちゃんに向けて、自分や家族の歩みを本に記しました。

(谷生さん)
「『パパだけどママって、何?』って、なるかもしれないですよね。その時に、ちゃんとあの子が手に取って、こういうふうにママは生きてきて、あの子が本当に望まれて愛されて生まれてきたんだなというのを、本にしておくと、客観的に知ることができる」

「自分が信じる道を行けばいい。わかる人って絶対いるから」“誰も歩いたことのない道”を正々堂々と歩む、素敵なママからのメッセージ―

 ももちゃんが生きる未来のため、“ママ”として何ができるか―。

 訪れたのは、思春期を過ごした故郷・神戸の高校です。

 大勢の高校生の前で、谷生さんは語ります。

(谷生さん)
「パパだけど、ママになりました。神戸の片隅で、自己肯定感の確立に悩みながら夢だけを膨らませていた少年が、いかにして自分らしさを創出して夢を実現し、ハッピーな“ママ”になったか―。ワケわかりませんね(笑)」

 高校生たちに、トランスジェンダー女性として、自身の経験を伝えました。望むのは、“誰もが生きやすい優しい世の中”になること―。

(高校生)
「最近、すごくたくさんの種類があって、LGBTQQIAAPPO2S…誰にどうやって配慮したらいいのか、わからなくなって」

(谷生さん)
「確かにLGBTQQIAA何とかかんとかって、ワケわからないですよね。どこに“地雷”があるのかわからないし、“地雷”を踏まないように、おっかなびっくり歩くような風潮があるの、わかっています。でもね、あんまり気にしすぎなくていいと思います。ただ、他人が傷付くことをしないという気持ちを持っておく。わからないことはわからないで、いいんですよ。仮に、わからないが故に傷付けてしまったら、本当にごめんなさいと言えばいいんです。これってLGBTQだけじゃなくて、出身地とか性別とか、もっとベーシックなこと、それと同じなので、あまり難しく考えなくていい。とにかく他人が嫌がることはやめようと思って、できれば知ることを少しでもやっていくことによって、いわゆる“地雷”と言われていることが、わかってくると思うんです」

 そして、未来の大人たちに示したかったこと―。

(谷生さん)
「私が出続けることで、誹謗中傷を浴びるかもしれないけど、ポジティブな声もあるかもしれないし、少なくとも勇気づけられたり、ポジティブなきっかけになれるかもしれない。なれるんやったら、私はそれを頑張りたい―。そう思いました」

 ただ、自分らしく生きることは、そう簡単ではありません。話を聞いた高校生たちが、谷生さんのもとに訪れました。

(高校生)
「自分が生きる意味を見失っていて、なんか誰にも肯定されていない気がして。自分がやりたいことがいっぱいあるんですけど、『どうせ、できひんやろ』とか言われたり…」

 涙ながらに話す高校生に、谷生さんは…。

(谷生さん)
「ごちゃごちゃ言ってくる奴は、どうでもいい人生送っているから」
(高校生)
「ははは(笑)」
(谷生さん)
「私だって“変人”と言われていたけど、『news zero』に出た瞬間、手のひら返しやから。そんなもんよ。気にしなくてもいい。自分が信じる道を行けばいい。わかる人って絶対いるから。どっかで同志って出会えるから、大丈夫!ハグしていい?大丈夫、大丈夫、大丈夫!」

 パパだけど、ママになることができた―。希望を忘れず、誰も歩いたことのない道を歩む生き方が、誰かの道を照らします。

(谷生さん)
「人とは違う人生を生きてきたかもしれないし、ちょっと違う家族の形だけど、生まれてきた“奇跡の子”に恥ずかしくないママでありたいと思っています。皆さんにも、いろいろあると思います。でも、自分自身に肯定感を持って、なかなか好きになれないかもしれないけど、信じる道を歩いてください」

(「かんさい情報ネットten.」2024年5月10日放送)