山火事、なぜ同じ時間帯で相次いだのか?
8日、東北を中心に強風が吹き荒れ、山火事が各地で起きた。なぜ、ほぼ同じ時間帯に複数の地点で同じような山火事が発生し、広がったのだろうか。
■太平洋側は「乾燥」していた
まず、東北で、山火事が起きた場所を見てみると、岩手県釜石市、宮城県栗原市、福島県会津坂下町の3地点になる。理由としては、まず「空気の乾燥」が挙げられる。山火事の発生当時、岩手、宮城、福島の全域で乾燥注意報が出ていた。特に、住宅にも燃え移った栗原市では、先月27日から雨が降っておらず、枯れ草などが乾燥した状態だったという。
さらに気象庁は、「フェーン現象」も影響したとみている。「フェーン現象」とは、山を越えた空気が暖められ、乾いた空気へと変わることをいう。湿った空気は山をのぼる際に雲になる。雲になると、水分を使ってしまうため、山を越えた風は乾く。
実際、きのうの雲の動きを見てみると、日本海側から強い西風が吹いていて、奥羽山脈などにぶつかり雲が発生。しかし、山を越えると雲はなくなり、乾いた空気が太平洋側に流れ込んだ。これにより、8日正午の湿度は、日本海側では57%パーセントあったが、太平洋側は23パーセントまで落ちて、空気が乾燥していたことがわかる。
■「強風」で1km先にも燃え移る
また、8日の各地の最大風速を見てみると、岩手県釜石市が14メートル、宮城県栗原市が12メートル、福島県会津坂下町に近い南会津町は9.7メートル、いずれも5月の観測史上最大を記録した。
乾燥と強風の2つが重なると、山火事の拡大につながりやすい。その理由に「飛び火」がある。「飛び火」というのは、火災によって発生した火の粉が上昇気流で舞い上がって、風に乗って離れた場所に燃え移ることをいう。
宮城県栗原市の火災では、火元となった可能性のある場所は、今回の火災の場所から西に約1キロ離れた寺近くにある林だったという。つまり、火の粉が1キロ先にまで飛んだということになる。
■「放射性物質が飛散?」ネット上で波紋
また、こうした山火事が福島県で起きると、放射性物質の飛散は大丈夫かという声が聞かれる。8日に起きた火災は、福島第一原発から100キロ近く離れた、会津坂下町という場所で、福島県放射線監視室によれば、「空間線量率に大きな変化はまったくない」という。
一方、福島第一原発事故で、帰還困難区域に指定されている浪江町の山林で、先月29日に起きた火災をめぐっては、一部地方紙が「高濃度の放射線物質が飛散し、被曝の懸念がある」とするコラムを掲載したことなどから、インターネット上で、波紋が広がった。
■空間線量に大きな変化無し
実際の数値はどうなっていたのだろうか。福島県放射線監視室が発表している、浪江町や双葉町といった火災現場周辺にある既存のモニタリングポストによる空間線量率の測定結果では、いずれも、火災前と後で、大きな変化はない。
福島県では、空間線量率を追加で連続測定しているが、こちらも大きな変化はないという。放射線計測に詳しい帝京大学診療放射線学科の大谷浩樹教授は、「モニタリングポストの数値は信じて大丈夫。モニタリングポストの数値や自治体が発する情報などを冷静に、受け止めることが必要だ」と話している。
風評被害を防ぐためにも、正確な情報を知ることが大切だとわかる。裏付けのない情報で被災地に風評被害をもたらすことがあってはいけない。福島県では、毎日1回夕方に県のホームページで、先月に起きた山火事現場周辺の空間線量率の測定結果を公表しているので、こうした科学的なデータを冷静にチェックしたい。