体罰で脳に悪影響…「愛の鞭」やめるには?
先週、厚労省の研究班が発表した「愛の鞭(むち)ゼロ作戦」。子どもへの愛の鞭だとして体罰などをする親に対して、愛の鞭という考え方自体をやめさせようというものだ。虐待は子どもの脳の発達に深刻な影響をもたらすという。「愛の鞭」をやめるためのポイントとは―
■「言葉の暴力」も虐待になる
そもそも体罰を“愛の鞭”と思っているのは親だけで、子どもには恐怖しか与えない。初めはしつけだと思っていると次第にエスカレートして虐待へとつながることになる。
まずは、増加し続ける“虐待”のデータについて見てみる。全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は、2006年度には、約3万7000件程だったが、2015年度には、10万3000件を超えていて、3倍近くにもなっていることがわかる。
そして、この相談内容を内容別に見てみると―「心理的虐待」がほぼ半数の47.2%と一番多く、殴る蹴るなどの「身体的虐待」は27.7%、次に「ネグレクト(育児放棄)」「性的虐待」と続く。
虐待と言っても、身体的なものより、心理的なものの方が圧倒的に多いのもポイントだろう。この心理的虐待というものを具体的に言うと、子どもに向かって暴言を吐いたり、他の兄弟と比べて、差別的に扱ったりすることだけでなく、子どもの目の前で、暴力をふるうことなども心理的虐待になる。つまり、子どもに直接、手を上げなくても虐待になる。
■体罰で「前頭前野」付近が19%縮小
さらに、最近の研究で虐待につながる体罰は脳の発達にまで深刻な影響を与えてしまうことがわかってきた。福井大学の友田教授とアメリカ・ハーバード大学との共同研究で、アメリカに住む18歳~25歳の1500人を対象に行われた調査で明らかになったことがある。
子どもの頃、長期的に頬に平手打ちをされるなど、激しい体罰を受けた人の脳の断面の画像を見ると――激しい体罰を受けた人の脳は体罰を受けていない人の脳に比べて、「前頭前野」付近の容積が平均で19.1%縮小していたという。
この「前頭前野」は、感情や理性をコントロールしているが、ここが萎縮してしまうと、うつ病など感情面での問題や非行など行動面での問題が出てくると考えられるという。
■心理的虐待は、対人関係に支障も
また、脳に影響を与えるのは、心理的虐待でも明らかになっている。子どもの頃に長期間、両親の間での「DV(家庭内暴力)」を目の当たりにしてきた人の脳の画像を見てみると、健康な人の脳と比べて「視覚野」周辺の容積が、平均で6.1%縮小していたという。
この「視覚野」は、目で見たものを受け止めて、認識する部分だが、ここが萎縮すると、視覚から得られる情報に影響が出る可能性がある。例えば、話している相手が、喜んでいるのか、怒っているのか表情を読み取れずに対人関係に支障をきたすことも考えられる。
■イライラが爆発しそうな時は―
ただ、悪い事だとわかっていても子育て中の方からは子どもが言うことを聞かなくて、つい怒鳴ってしまうこともあるかもしれない。イライラが爆発してしまいそうになる時には、踏みとどまる必要がある。
厚生労働省研究班の立花医師は、少しの間だけ、子どもから離れて別の部屋に行ってみたり、深呼吸をしてみたりすることも効果的で、踏みとどまる自分なりの方法を見つけておくことが大切だと話す。
■子どもを抱きしめてみるのも効果的
諏訪中央病院・鎌田實名誉院長は、子育て中の人に、子どもを抱きしめることをすすめているという。愛情を持って抱きしめると、親と子どもの脳から“愛情ホルモン”とも呼ばれるオキシトシンが分泌される、といわれている。
オキシトシンには、ストレス軽減効果があって、お互いの気持ちを安定させる効果が期待できる。子どもへ愛情を注ぐような気持ちで抱きしめてみるといいそうだ。
■1人で抱え込まずにSOSを
今回の結論は「親もSOSを」。子どもを育てる、というのは大変なことだ。困った時はSOSを出したい。家族や友達、自治体の子育て相談窓口に話を聞いてもらうのもいい。
子育てがうまくいかなくて、つい子どもにあたってしまう、といった悩みを24時間、専門家に相談することができる番号がある。番号は全国共通で「189(いちはやく)」番。近くの児童相談所につながる。育児の負担を1人で抱え込まずにSOSを出すことが大切だ。