映画「光」で注目 音声ガイド制作者って?
x 日本時間29日まで開催されていたフランスのカンヌ国際映画祭で、河瀬直美監督の映画「光」が「エキュメニカル審査員賞」を受賞した。河瀬監督が映画制作に向けたインスピレーションを受けたのは「音声ガイド制作者」という職業だった。一体、どんな仕事なのか。
■音声ガイド制作者とは
映画「光」は「音声ガイド制作者」という、なじみの薄い職業を題材にしている。視覚障害者向けの映画の音声ガイドを作る女性と、次第に視力を失うカメラマンが出会い、心を通わせていくというラブストーリーだ。
音声ガイド制作者は「描写する人」という意味の「ディスクライバー」とも呼ばれ、視力に障害のある人がもっと映画を楽しめるよう、登場人物の動きや風景などをナレーションにする仕事だ。
音声ガイドを利用したい人は専用のアプリがインストールされた端末を借りる。映画が始まると、端末のマイク機能が映画の音声を認識し、シーンに合わせた音声ガイドがイヤホンから流れるというシステムだ。
■脚本家と同様のスキルが必要
音声ガイド制作者は、映画を何回も鑑賞して内容を十分理解した上で解説を書くが、シーンを崩さない表現を考えるなど、脚本家と同じようなスキルが必要だ。
作業の途中では映画の監督やプロデューサー、視覚障害のある人も招き、「仮読み」をする。解釈が間違っていないか、どう言えば分かりやすいか、などを議論して修正を繰り返すという。
音声ガイド制作者が日本で職業として確立されたのは、最近のことだ。音声ガイドの普及と開発に取り組んできた「Palabra株式会社」の川野浩二さんによると、これまでは、音声ガイドをラジオで飛ばすための専用機材が映画館に必要で、あまり普及していなかった。作り手もボランティアが多かったという。
そんな中、去年秋に専用のアプリが開発されたことで、スマートフォンなどがあれば誰でも利用できるようになり、音声ガイド対応の映画も急速に増えた。この発明で、視覚障害のある人は映画がより楽しめるようになった。
■聴覚障害者への「字幕配信」も
視覚障害のある人だけでなく、聴覚障害のある人への字幕配信サービスもある。必要なのはスマートフォンと同じような機能を持った特殊なメガネで、音声ガイドと同じアプリを立ち上げて映画を見ると、メガネの中で字幕が流れるという仕組みだ。
映画業界では、こうしたメガネを映画館で貸し出せないか検討が進められているという。
■「広がる楽しみ」
音声ガイドを聞くことができるアプリには、本編が始まると端末の液晶画面が暗くなるという機能がついている。これは、上映中に液晶の光が周りの人の迷惑にならないようにという配慮からだという。
一人一人の思いやりと新たな技術をうまく組み合わせ、みんなの楽しみが広がっていくことを願いたい。