なぜ“欧米型の食事”で死亡リスク減少か?
先日、食事の傾向による死亡のリスクについて「欧米型の食生活でも死亡リスクが低下」という意外な研究結果が発表された。欧米型の食事といえば、肉や乳製品をイメージするが、どのような効果があるのだろうか、諏訪中央病院・鎌田實名誉院長が解説する。
■欧米型の食生活の定義
今回の研究は、国立がん研究センターと国立国際医療研究センターとの共同で行われたもので、9府県の40歳から69歳の男女、約8万人を平均15年間追跡調査したものになっている。
これほどの大規模な調査で欧米型の食事が死亡リスクを下げるという結果が出たのは国内では初めてということだ。今回の研究では、食事の内容を「健康型」「欧米型」「伝統型」の3つのパターンに分類して調査が行われた。
まず、日本人の食事パターンだが、「健康型」というのは、魚、野菜、大豆製品、きのこ類、海藻類、緑茶などの食事。そして、「欧米型」というのが、肉やパン、乳製品、コーヒー、果物のジュース、などの食事。「伝統型」というのが、ご飯やみそ汁、漬け物、魚介類などの食事だ。
それぞれの食事を多くとる人と少ない人との死亡のリスクを比べたところ、「伝統型」では、関連性がみられなかった、ということだが、「健康型」と「欧米型」では、死亡リスクが下がる結果が出た。
■「心疾患」「脳血管疾患」ともにリスク減少
死因別に見ていくと、まず、「心疾患(心臓の病気)」による死亡リスクをみていくと、健康型の食事の傾向が弱い人/強い人たちのグループでは、弱い人たちの死亡リスクを1とした時に、最も高い人たちのグループは0.75となっている。
つまり、健康型の食事傾向が最も強い人は、弱い人に比べて、25%ほど、心疾患による死亡のリスクが低くなっていることがみてとれる。また、欧米型の食事でも、その傾向が最も強い人たちは、弱い人たちに比べて12%ほど、リスクが低くなっている。
次に、「脳血管疾患」による死亡リスクを見てみると、健康型の傾向が最も強い人たちは、最も弱い人たちに比べて、37%ほど、リスクが低くなっている。
また、欧米型の食事でもその傾向が強い人たちは、弱い人たちに比べて、12%ほどリスクが低くなっている。こうしてみてみると、心疾患でも脳血管疾患でも、健康型ほどではないものの、欧米型の食事を多くとることでリスクが下がっていることがわかる。
■同じ欧米型でも「量の違い」が重要
これまで、欧米型の食事は、体に良くない、というイメージがあったが、なぜ、このような結果になったのだろうか。今回の研究代表者、国立がん研究センターの津金医師はそのワケについて次のように話している。
「欧米型といってもアメリカ人のような典型的な欧米型の食事に比べれば、肉、加工肉にしても、乳製品にしても量が全然違う、というところが重要。逆に、日本人はあまりにもそれが少なすぎた。いわゆる少し欧米型が入ってくる食事が入ってくることによって、主に日本人に多い脳卒中のリスクを下げる効果があると思う」
欧米型の食事は、塩分が少ない特徴があるので、それもいい結果を生んだ可能性がある。また、健康型にはない、乳製品やコーヒーを適度にとっていることが、死亡リスクを下げている可能性があるということだ。
■「乳製品」と「コーヒー」をどう捉えるか
具体的に乳製品は、どんな効果が期待できるのか。まず、乳製品には、カルシウムが豊富に含まれている。津金医師によると、カルシウムは、「血圧を下げる」効果や「コレステロールの吸収を抑える」ことも報告されていて、特に「乳製品からのカルシウム摂取量が多いと、脳卒中の発症リスクが下がる」という研究結果もある、という。ただ、健康にいいからといって、大量にとることは、すすめられない。
ではコーヒーはどうなのだろうか。実は、コーヒーには興味深いデータがある。岩手や大阪など10の都府県で、40~69歳の男女約9万人のコーヒー摂取と死亡リスクとの関連を示した調査結果によると、コーヒーをほとんど飲まないグループと、1日3杯から4杯飲むグループを比べてみると、死亡リスクが24%減っていることが示された。
ただ、1日5杯以上飲んでいたグループは、3、4杯のグループよりもリスクが少し上がっているので、コーヒーも適度に飲むことがいいと考えられる。
■塩分に注意してバランスよく
今回の結論は「バランスよくとる」。欧米型の食事でも死亡リスクが下がる、と述べたが、毎食のように欧米型の食事を摂っていては、その効果は期待できない。重視して欲しいのは、「健康型」を中心にして塩分は控えること、野菜、キノコ、海藻など、食物繊維をとること、そして肉や魚、乳製品などバランス良くとることが健康への第一歩だということだ。