【能登半島地震】防災士・永野弁護士に聞く “生活再建” に活用できる制度は?被災地への支援と知っておくべき知識を徹底解説(静岡県)
能登半島地震の発生から1か月が過ぎました。2月1日まで1か月間で亡くなった人は、災害関連死を含め240人、いまだ、15人の安否が分かっていません。住宅被害は石川県だけで約4万8千棟、1万4千人以上が避難生活を強いられています。今後の生活再建が課題となる中、静岡県から、被災者を支援する人がいます。
静岡市在住の弁護士、永野海さん。防災士の資格をもち、日弁連の災害復興支援委員会副委員長を務めます。これまでも東日本大震災をはじめ、県内では熱海土石流や台風による水害など、住む場所を失った被災者に寄り添い、アドバイスを行ってきました。
能登半島地震でも直後から支援を開始。“防災弁護士”永野海さんが被災地に必要な支援、そして、対岸の火事ではない、私たちが知っておくべき生活再建のための知識を解説します。
防災弁護士・永野海さんとともにお伝えします。
元日に能登半島地震が発生してから支援活動を行ってきたということですが、具体的にはどうのようなことをされてきましたか?
(永野 海 弁護士)
「1月の記憶がほとんどないくらい忙しかったんですが…自治体や国の職員さんと会議や、支援をする団体への助言など、様々なことがありましたが、その中でも、早く被災された方に支援制度の情報を届けたいと、支援情報をまとめた瓦版を作りました」
こちらが、その瓦版です。いろいろ細かく書いてありますが、どう活用すればいいですか?
(永野 海 弁護士)
「家が壊れた、家族を失ったという被災をすると、頭が真っ白になってしまいますが、その時に何をすればいいのか、どのように再建へ歩みを進めていけばいいのかを、なるべく分かりやすく、一歩目、二歩目というかたちで示し、経済的に苦しかったり、年金収入で生活している場合、被災後の再建にすごくお金がかかりますので、ダメだと思ってしまうかもしれませんが、そんなことありません、公的な支援制度があれば再建できますということを、なるべく分かりやすく示しています」
被災された方の道しるべになるものということですね。その瓦版、上から見ていきましょう。まずは「再建までの流れ」です。最初に自宅の被害状況の写真・動画の撮影とありますが、これがまずすべき重要なこと?
(永野 海 弁護士)
「証拠を残すというのはとても大事。ちゃんと被害の状況を残しておかないと、安心して片付けもできないし、解体もできない。最近では、動画を使っていろんなところを撮影することをすすめています」
つづいて、り災証明書を申請するという段階。り災証明書のための準備が出てくるわけですね。
(永野 海 弁護士)
「公的支援を受けるためには、ほとんどの制度がり災証明書とつながっていますので、まず、り災証明書を申請することが重要。その意味でも、証拠をしっかり残して、正しく被害判定をしてもらうのが重要」
つづいて、り災証明書を入手したら「支援制度の検討開始」、さらに住宅ローンがある場合は被災ローン減免制度を検討とあります。
(永野 海 弁護士)
「東日本大震災でも、住宅ローンが何千万円も残っているのに家が流されたというのが、一番絶望する典型ですが、実は、自己破産しなくても債権を免除してもらう制度があるということだけでも知ってもらいたい」
こうした支援制度に関する知識は事前に知っておく必要があると、永野弁護士は各地で講習会を行っています。先日も西伊豆町で開催されました。
1月、西伊豆町で行われた講演会。似たような地形で起こった災害に、参加者はみな真剣に耳を傾けていました。
(永野 海 弁護士)
「地形が今、能登半島の支援を阻んでいます、それは伊豆半島も同じだが、南海トラフ地震が起きた時には、他も全て被災してしまっています、車が通れないという理由だけでなく、本当に助けに来れない。今、能登で起こっていることは全て静岡で起こることです。しかも、もっとひどい状況で起こる」
講習では、永野弁護士が作ったカードでどんな支援制度があるかを学び、ゲーム形式で生活再建を考えます。半壊の判定を受けた老夫婦から相談を受けたという想定で、自宅を修理するのか、他の場所に家を新築するのか、または公営住宅に住むのか、様々な選択肢から支援制度を使って生活再建への道筋を考えます。
講習を終えた参加者は・・・
(参加した町民)
「実例で勉強して、自分の場合ならどうしたらいいのかなど考えて、いい体験になりました。もうひとごととは思えないです、あの情景が伊豆半島にもすぐ来ると思ったので、心の準備も家の準備もしていかないといけない」
「本当に知らないことを知ることができて、非常に重要な話を聞けた。被災をしたとしても絶望するだけではなくて、夢を持つことは、生きていく力になる、今回の講演はためになった」
参加者の関心も高かったようです。
(永野 海 弁護士)
「支援制度のことは学校では習わない、災害が起こった後に教えてくれる人もいない。日ごろから制度の存在を知っておいて、家がある日突然壊れたら、どういう再建をするかをイメージするだけでも違います」
ここで、知っておくべき支援制度の一例を教えてもらいます。瓦版の下にあります被災者生活支援金についてです。
(永野 海 弁護士)
「国からの支援金、全壊など被害の大きい方に最大300万円支給されるということで、支援の中心になる制度。ただ、り災証明で中規模半壊以上にならないともらえないと、多くの人が関係ないとあきらめてしまうが、実は、“解体”というものがあって、単なる半壊では支援は受けられないけれども、いまはタダで解体してくれる、公費で解体をすると、全壊と同じ扱いを受けて、最大300万円もらえるということを知っているだけでだいぶ違います。自治体の職員さんも日ごろ経験しないので、知りません。なので、市民の側で、知識を備えて活用に生かすことが重要」
建物の倒壊や火災により大きな被害がでた石川県輪島市に、Daiichi-TVの取材班がいます。現地から、中継で伝えてもらいます。
(杉本汐音記者)
「輪島市の「朝市」に来ています。先ほどから雪が降りはじめ、立っているだけで体の芯から冷える寒さとなっています。私の後ろに見える「朝市」は多くの店が立ち並び観光客でにぎわっていましたが、能登半島地震による火災で200棟以上が焼けました。いまも、焼け落ちた家屋がそのままの状態となっています。
一方、地震発生から1か月が経ち、徐々に支援の輪も広がってきています。
朝市のすぐ近くにあるイベント会場では、朝から静岡市の職員らが、被災した人たちに配布する支援物資の在庫整理を行っていました。午前11時の配布開始と同時に多くの市民が訪れ、マスクやおむつ除菌シートなどの衛生用品などを手に取っていました」
(清水区役所 蒲原支所 総務課 若月 努 さん)
「今回の災害は他人ごとではない、南海トラフ地震も今後想定されているため、そこも踏まえて、少しでもお役に立てるように活動している」
(杉本記者)
「静岡市によりますと、活動する中で「道路状況が悪く物資が届かない」ことや「在宅避難者まで支援の手をどう広げるか」などの課題も見つかったということです。被災地では、道路の復旧作業やがれきの撤去が進まず、物資や衛生環境なども十分とは言えず、依然、厳しい状況が続いています。震災から1か月となりましたが、被災地に向けて息の長い支援が求められています」
現地では、永野弁護士が作成した瓦版を持ち帰る被災者の方も多いということでした。能登半島で被災した人たちの生活再建に向けて、改めてどのような支援が必要だと考えていますか?
(永野 海 弁護士)
「こういう情報は大事だが、出発点にすぎない。これがあっても、申請できない弱い立場の方がたくさんいて、やはり、説明してあげる人、申請をサポートしてあげる人、申請後も一緒になって再建を考えてあげる、そういう仕組みづくりが求められている。まだまだそこまで行ってないのが現状です。一人一人に寄り添って再建をサポートしようという動きを国もやってくれているが、市民もボランティアも、みんなで少しずつ勉強をして、情報を共有していく、寄り添っていくことが重要」