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【独自取材】“雲の上の診療所”富士山八合目の女性医師に密着!頭痛に吐き気…訪れる体調を崩した登山者たち そして日本一の山岳医が伝えたいこと

2023年10月10日 16:00
【独自取材】“雲の上の診療所”富士山八合目の女性医師に密着!頭痛に吐き気…訪れる体調を崩した登山者たち そして日本一の山岳医が伝えたいこと
“雲の上の診療所”富士山八合目の女性医師に密着!

 世界遺産登録10年を迎え、例年にも増して多くの人で賑わった富士山は9月に閉山し、2023年の登山シーズンは終了しました。早朝のご来光を見るため、休憩を取らずに夜通し登り続ける「弾丸登山」なども問題となる中、「ミヤネ屋」は、富士山八合目にある“雲の上の診療所”で登山者を守る女性医師を訪ねました。

  “コロナ”の制限が解除され、例年以上に多くの登山者で賑わった富士山ですが、日本各地だけでなく、海外からの訪問者も多くありました。富士山にある4つの登山ルートのうち、「ミヤネ屋」スタッフが目指す「富士山衛生センター」があるのは富士宮ルートの八合目標高3250mです。

 登山中は、黒っぽい岩が転がる険しい道が続きます。この険しい道中ですれ違ったのは、登山靴を手に持ち裸足で登る男性です。韓国から来たというこの男性は「健康のためだ」といっていましたが、裸足での富士登山はあまりにも危険です。さらに、標高3000m付近では、外国人の男性が、通路の外の立ち入り禁止エリアに立って写真を撮影しています。すぐ下は崖になっていて、大変危険な状況です。「ここは立ち入り禁止です。とても危険です」と注意をすると、幸いにも男性は素直に聞き入れてくれました。

世界最高峰・エベレストの登頂にも成功した「国際山岳医」

 五合目から登り続けること約4時間。「ミヤネ屋」スタッフは、標高3250mにある「富士山衛生センター」に到着しました。そこで出迎えてくれたのは、ここに勤務する大城和恵医師です。大城医師は、高度な医療知識とレスキュー技術を併せ持つ世界認定資格の「国際山岳医」を日本人で初めて取得しました。また、2018年には世界最高峰・エベレストの登頂にも成功しています。実はこのエベレスト挑戦、「山岳医」である大城医師にとって“大きな意味”があったそうです。

(大城医師)
「山岳医として高山病の予防はどうするんだとか、みんなにお話ししているんですけど、『もうこれ以上高いところがない』というところで自分の体がどうなるか、というのを身をもって体験したら、みんなにもっと説得力を持ってお話ができるんじゃないかなと思いました」

大城医師は、そのために約800万円の自費をつぎ込みエベレストに挑んだといいます。

(大城医師)
「自分がいろんな山に登ってきたので、『このくらいの高山病だったらまだいけそうだな』『この人はちょっと危ないな』というのはかなり判断ができると思うんですよね」

「頭痛」「吐き気」診療所に訪れる体調を崩した登山者たち

 この日も、体調を崩した登山者の男性(20)が大城医師に助けを求めました。

(大城医師)
「午後3時に登り始めてここに着いたのが午後7時くらい。着いたときにもう痛かった?」
(男性)
「寝ようとしたらだんだん痛くなってきて、どうにも寝られなくて…」

 衛生センターの隣にある八合目の山小屋に泊まっていた男性は、激しい頭痛に耐え兼ね助けを求めに来たといいます。吐き気はなく、食事もできていたのですが…

(大城医師)
「指を出していただいて体の中の酸素の量を測りますね…これは体の中の酸素の量で、平地にいると100くらいです。(今の数値は92で)酸素だけで見るとそんなに悪くないけど…」

 男性が泊まる山小屋があるのは、富士山八合目・標高3250mです。標高3000mを超えると頭痛や吐き気など「高山病」の症状を訴える人が多くなります。これを少しでも緩和させようと大城医師は、ある方法を男性に教えます。人差し指を立てて男性の前に差し出し…

(大城医師)
「これがロウソクの火だとして、3秒くらいで吹き消す感じでフウーって吹けるかな?」

男性が、指に向かって何度かフウーっと息を吹き掛けると。酸素の数値は96~98と改善されていきます。

(大城医師)
「酸素が少ないのを吸おうというよりは、吐くときにフウーって吹くと、吸った酸素が押し込まれて効率よく取れるので体の中の酸素の量が増えて頭痛は減ってきます。きょうは、そんなに眠れなくて当たり前だ、くらいに思っておいてください。お大事にね」

 男性はゆっくりと山小屋へ戻っていきました。

 空が白んできた午前4時すぎ。お兄さんに連れられ診療所にやってきたのは、ユウキくん(9)です。

(大城医師)
「小屋に泊まって寝てたら調子悪くなって、今吐き気で吐いちゃったんだね」

 ユウキくんは、沖縄から親子5人での富士登山です。みんなで頂上まで登るのを楽しみにしていたといいます。

(大城医師)
「これから上にできれば行きたい感じだよね?」
(ユウキくんの兄)
「行きたいんですけど、ガイドさんは『吐き気があるならダメだね』と…」
(大城医師)
「ユウキくんはどうしたい」
(ユウキくん)
「登りたーい」
(大城医師)
「そうかそうか。了解したよ」

少し考えた大城医師は、経口補水液を持ってきてユウキくんに少しずつ飲ませました。特に吐き気もなく飲めるようです。

(大城医師)
「気持ち悪くなってこないのであれば、ちょっと上に行ってみてもチャンスはあるかなという感じですね」
(兄)
「もうちょっと休憩してからでいいですか?」
(大城医師)
「いいよ。ただ休憩するときに、休んでいるとあまり低酸素に慣れないので、低酸素に順応するためにお話するとか、少しウロウロするとか、酸素を取り込むのが良いですよ。(頂上に)行きたかったんだね?」

 ユウキくんは、うなずきました。

(大城医師)
「素晴らしいね。うれしいな何か…ユウキくんの意志の強さがうれしい」

 診療が終わり八合目で休憩した後、ユウキくんは家族と一緒にゆっくりと山頂を目指していきました。

 診療を終えたひととき、衛生センターから出てきた大城医師の目の前には「ご来光」の絶景が広がっていました。
(大城医師)
「こういう厳しいところにいると自然の恵みで一日が回っているので…。単純に素晴らしいなと。役得ですよね、こんな素晴らしいものをここで見られて」

 大城医師は、診療所に来る人を診るだけでなく、山小屋の前で安全登山のための啓発活動も行います。登山者に、高山病の予防のため、診療でも行っている大きく息を吐いて血中酸素濃度を高める方法や、水分を取って脱水を防ぐことなどを伝えていきます。

 さらに今年は、入山者の増加とともに救助要請の件数も急増しました。「登山道で動けなくなった」というSOSに救助隊が駆け付けるケースも少なくなかったといいます。動けなくなった登山者は救助隊が担いで下山させますが、足元が悪い中での下山では、登山者を担いだ救助者が坂道に足を奪われることもあり、場合によっては、一人の登山者を数人がかりで担架を使って下山させることもあります。

 こうした万が一の事態にも対処するため大城医師は、静岡県警の山岳救助隊と密に連携を取っています。この日、山岳救助隊は雷が発生している中を登ってきたといいます。この後も午後3時頃、また雲が入って来て雷が酷くなるということでした突然の雨や雷といった天候の急変も含め、さまざまな観点から登山者の安全を守っています。

“弾丸登山”は危険「せっかくの登山、登頂の喜びを」

 富士登山の醍醐味「ご来光」。これを見るため例年問題となっているのが、十分な休憩を取らず暗い登山道を夜通し登り続ける、いわゆる「弾丸登山」です。

「そろそろこういうのやめませんか…」富士宮口ガイド組合のX(旧ツイッター)への嘆きの投稿に添えられたのは、山小屋に泊まらず、防寒服を着こんだ登山者が地面に寝転ぶ様子や、危ない山の急斜面で仮眠をとる姿です。こうした無理な計画で山頂を目指す「弾丸登山」は脱水症状や高山病、低体温症のリスクが高く、最悪の場合、命を落とす危険性もあります。「弾丸登山」について、世界の山々を制覇した登山家でもある大城医師はこう話します。

(大城医師)
「危機感のない人にいくら言ってもなかなか通じないなというのは、繰り返し毎年思うところです。一日で登って下りる場合は(富士山は)標高差が大きくて、体力もかなり消耗しますし、歩いているときに眠くなりケガする人もいます。“知識”も“技術”も“体力”も必要になってくるし、装備もしっかりしてないといけないので、弾丸登山は難しいと思ってください」

 世界の山々と比べると、富士山は建物などの人工物が多く、“観光地感覚”で訪れる登山者も少なくありませんが、実際には標高3776mという日本一の頂です。

(大城医師)
「せっかく登山で、みなさん憧れて来られるので、ただ危ないとか病気だとかだけじゃなくて、登頂の喜びを一緒にみなさんにご提供できたらいいなと思っています」

(「情報ライブミヤネ屋」2023年8月28日放送)