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来年度予算案「与党ペース」で衆院通過…苦悩する立憲民主党“提案型”の功罪

2022年2月23日 16:36
来年度予算案「与党ペース」で衆院通過…苦悩する立憲民主党“提案型”の功罪
立憲民主党・泉代表

22日、来年度予算案が衆議院で可決された。支持率の低迷に苦悩する立憲民主党が新たな方針を打ち立てて臨んだ予算委員会は、「与党ペース」のまま終わった。
国会における野党の役割とは何か――立憲が自問自答し試行錯誤した歩みを振り返る。

■泉代表肝いりの「提案型」路線

衆議院選挙での敗北を受け、去年12月、立憲民主党の執行部が刷新された。泉新代表が国会対策委員長に指名したのは、馬淵澄夫氏。旧民主党時代、耐震偽装問題で独自の調査に基づき政府を追及した論客として知られる。

泉氏が馬淵氏に求めたのは「提案型」。国会質疑を通じて、政策提案をアピールする方針を掲げた。枝野前代表・安住前国対委員長の「追及型」とは、一線を画す狙いがあった。

その背景のひとつに、衆院選での敗北の反省がある。

党内若手議員は、「国会で厳しく詰問する姿勢が、党全体のマイナスイメージに繋がり、選挙では相当苦戦した」と打ち明ける。実際に、前体制で政権批判の急先鋒だった辻元清美氏、川内博史氏、黒岩宇洋氏らが相次いで落選。中堅議員は「彼らは前体制の国会方針の犠牲者だ」とまで言い切る。

馬淵氏は、泉氏の指示も踏まえ「事実に基づき充実した審議を行う」との方針を打ち出した。こだわったのは、与党との駆け引きの中で審議時間を確保し、夏の参議院選挙に向けて争点をあぶりだすこと。同月、立憲新体制にとっても岸田政権にとっても初の論戦となる臨時国会が幕を開けた。

■岸田首相を前に「提案型」は…

臨時国会では早々に、「提案型」が功を奏した一幕があった。

18歳以下への10万円給付をめぐり、立憲は、5万円をクーポン支給にしたことで、900億円超の費用がかかるという事実を政府側から引き出していた。この事実をもとに、予算委員会で、クーポン支給を撤回し現金一括給付を認めるよう求め続けた結果、岸田首相は方針を転換。一括給付が実現することとなった。

立憲にとっては、新たな国会方針の「実績」となったが、党の支持率アップには結びつかなかった。それどころか、「聞く力」を掲げる岸田政権にとっては、柔軟な姿勢をアピールする好材料になり、内閣支持率は上昇。立憲国対幹部は、アピール力不足を認め、「政策を提案しても与党に丸呑みされるだけだ」と嘆いた。

■「提案」と「追及」の両輪へ

党内外からは「もっと政府を追及すべきだ」との注文が相次いだ。
立憲国対幹部は「野党の役割は権力監視。提案型では与党に勝てない」と言い切った。今年1月に開会した通常国会では、「提案と追及の両輪で」と軌道修正。泉氏も「明確に批判すべきところはやっていく」と党内に訴えた。

泉氏自身も、予算委員会の質問準備中に、予算案の説明資料の誤りを発見。国会で指摘し、政府の対応を追及した結果、相次いで資料にミスが見つかり、岸田首相が陳謝。政府が再発防止策をとることとなった。

18歳以下への10万円給付が、去年9月以降に離婚したひとり親家庭に支給されない問題については、立憲が繰り返し対応を求めた結果、政府が方針を転換し支給されることとなった。新型コロナワクチンの3回目接種をめぐっては、接種回数の目標設定に慎重だった岸田首相から、「1日100万回を目指す」という答弁を引き出した。

しかし、立憲の支持率は低迷し続けた。内閣支持率は下落したものの、党内では「コロナの感染拡大によるもので、立憲の手柄ではない」と冷めた見方が広がった。
当初、追及の矛先を向けていた国土交通省の不正統計問題や、在日米軍が出国前検査を免除していた問題も、政権を揺るがす事態には発展しなかった。

■「審議拒否はしない」そのワケ

今月に入ると、国会を騒がす"スキャンダル"が出てきた。

岸田政権が目玉政策として掲げる経済安全保障推進法案を担当する事務方トップが、週刊誌報道をきっけに、事実上更迭されたのだ。野党各党は政策への影響や情報漏洩の有無をただしたが、政府は「調査中」との答弁を繰り返した。

こうした政府の姿勢を受けて、党内からは「政府が調査結果を報告するまで審議を止めるべきだ」などと執行部への不満の声が上がった。立憲ベテラン議員は「今の執行部には攻めの姿勢が足りない」と嘆いた。馬淵氏はそれでも「審議拒否」という従来の手法はとらなかった。
立憲として事実関係を確認できない中、週刊誌報道の疑惑だけで国会を止められないという判断だった。「現在の党勢を考えた時に審議拒否で国民の理解を得られるのか」という思いもあった。

新体制を悩ませてきたのが、野党の構造の変化だ。
立憲国対幹部は、「前体制の時代とは数の力が違う」と苦悩をにじませる。先の衆院選では、日本維新の会と国民民主党が議席を伸ばした。議員数だけをみると、立憲がもはや圧倒的な野党第一党ではなくなった。政府与党に対し「是々非々」で対応する維新と国民の議員数が増えたことで、立憲幹部は「いざとなれば与党に数の力で押し切られる」と危惧する。

■揺れ動く野党共闘

維新や国民との関係再構築が必要と考えた立憲国対幹部は、少数会派「有志の会」の求めに応じる形で、野党の国対委員長代理が協議する場を設けた。予算委員会の最終盤に向けて、野党の足並みを揃える狙いがあった。国民が「共産党とは一緒にやれない」と主張したため、共産党とは個別に協議することとしていた。

この枠組みに共産党が猛反発。立憲としてはあくまで非公式の場という認識で「共産党外し」の意図はなかったが、謝罪・撤回を余儀なくされた。それでも、自民が提案した採決日程には、維新・国民も含めた野党が一枚岩となって反対し、さらなる審議時間を獲得することができた。

ところが、予算委員会での採決を迎えたその日、野党共闘に決定的なヒビが入る。国民が予算案に賛成。野党として極めて異例の対応をとった。

野党各党は、「事実上の与党宣言だ」「共闘はできない」などと反発。泉氏も、「野党とは言えない選択だ」と突き放した。

■舞台は選挙を控える参議院へ

21日の予算委員会、22日の本会議での採決を経て、来年度予算案は衆議院を通過した。審議日数や審議時間を近年の実績から積み増したことから、立憲国対幹部は「審議日程を確保して充実した議論ができた」と胸を張る。

一方で、与党からは「与党ペースの静かな国会だった」「早すぎるぐらいの衆院通過だ」と余裕の声が聞こえる。実際、立憲は、攻め手を欠いていた。

野党の追及に対し「指摘は受け止めたい」「検討したい」といった答弁を多用する岸田首相を前に、有効な攻め手を見つけあぐねた。これまで予算委員会の質問を担っていた論客が落選し「質問に立つ力量のある人材が少ない」という事情もあった。衆議院での審議は「与党ペース」を崩せないまま、立憲にとっては“不完全燃焼”で終わった。

国会論戦の舞台は参議院に移る。参院の立憲国対幹部は「とことん暴れる」と息巻く。蓮舫氏、森ゆうこ氏など「戦闘力の高い」議員を質疑に立たせる方針だ。

国会質疑を通じて、立憲への支持を広げることができるのか。24日、夏の参院選に向け、正念場となる参院予算委員会の幕が上がる。

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