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【飯塚事件】第2次再審請求の行方④状況証拠の柱「紺色ワゴン車」の“詳しすぎる”目撃証言 「これで有罪を出すんですか」福岡地裁は5日に可否を決定へ

2024年6月4日 19:56
【飯塚事件】第2次再審請求の行方④状況証拠の柱「紺色ワゴン車」の“詳しすぎる”目撃証言 「これで有罪を出すんですか」福岡地裁は5日に可否を決定へ
「紺色ワゴン車」の目撃証言
32年前、福岡県飯塚市の女の子2人が殺害された飯塚事件。殺人の罪などで死刑が執行された久間三千年(くま・みちとし)元死刑囚の再審=裁判のやり直しを認めるかどうか、福岡地裁の判断が5日に示されます。第2次再審請求の争点を振り返るシリーズの4回目は、弁護団が状況証拠の柱と位置付ける「目撃証言」について、弁護団の主張をお伝えします。

■久間三千年 元死刑囚
「アリバイ以上のものを持っている。100パーセント関係ないということを、あんたたちが即信じるわ。やってないものをやったと思われたことだけは、これは白黒必ずつける。」

一貫して無実を主張していた久間三千年 元死刑囚。自白も犯行を裏付ける直接証拠もない中、死刑判決を導いたのは複数の状況証拠でした。

■飯塚事件弁護団・德田靖之弁護士
「結局、柱としてのDNA型鑑定があり、車両の目撃証言がある。この2つの柱があるので、繊維が一致したとか、車内でどうも尿痕だとか、血痕らしきものがあったっていう証拠が意味を持つんです。」

その一つ、DNA型鑑定は、同じ鑑定手法が用いられた足利事件で鑑定の誤りが明らかになるなどしたため、証拠能力に疑問符がつき事実上、証拠から除外されました。

もう一つの状況証拠の柱は「車両の目撃証言」です。被害児童の遺留品が見つかった場所の近くで後輪がダブルタイヤの紺色ワゴン車が目撃され、確定判決は「久間氏の車」と認定しました。

いったいどのような証言だったのでしょうか。事件当日の午前11時ごろ、目撃者の男性はたまたまそのカーブを車で通過し、すれ違いざまにワゴン車を見たといいます。男性によりますと、時速25キロから30キロで走行していました。その間に何を見て、記憶し、証言したのでしょうか。

■目撃者の証言より
「確か、後部タイヤがダブルタイヤであった。窓ガラスは黒く、ガラスにフィルムを貼っていたのではないかと思います。車体にはラインが入っていない。」

その他にも「ホイルキャップの中に黒いライン」「やや古い型。車体の色は紺色」など、多くの特徴を証言しました。また、ワゴン車のそばにいた男の特徴についても証言しています。弁護団はすれ違いの一瞬なのに、あまりに詳しすぎると反論しています。

■支援団体が企画した見学会
「ここは遺留品の投棄現場です。」

この日、ある見学会が開かれました。再審請求を支援する市民団体が企画して、現場に同じタイプのワゴン車を置いて、目撃者の男性が証言した状況を再現しました。

男性は、左カーブを運転しながら、後ろを振り返って後輪のダブルタイヤを見たといいます。

■飯塚事件弁護団・岩田務弁護士
「皆さん、運転して横通って見たら、 見た直後だってそれだけ再現できませんよね。体験した以外のことがどこからか情報が入ってこないと、そういう調書は作れないわけです。」

「ないもの」を証言

この目撃証言をこれまで研究してきた専門家は。

■人間環境大学 心理学部・厳島行雄教授
「車の運転で、特にカーブを運転する時に、左なら左に曲がる時に、その道路に沿って左側をずっと見ていくという、そういう眼球運動をする。もしくは、そういう見方を運転の時にするという理論。」

左カーブで、右後ろを見ながら運転したと証言していますが、その視線はあまりに不自然だといいます。

また「目撃情報」のはずなのに「車体にはラインが入っていない」などと、「ないもの」を証言している点は不思議だと話します。

■厳島教授
「普通、ないものをなかなかないと報告することはない。自発的に何もないというものをないのだったらそれは語らない。」

実は、久間氏の車には標準のデザインとしてオレンジ色のラインがありましたが、久間氏はそのラインを剥いで使っていました。

なぜ、そのことを知らない目撃者まで「ない」ことを知っていたのでしょうか。第1次再審請求の審理で、その疑問に答えるような当時の捜査資料が明らかになりました。

3月9日、警察は目撃者の調書を作成しました。ところが、その2日前に捜査員が自ら久間氏の車を確認していたことがわかったのです。その日の捜査資料にはすでに、車に「ラインはなかった」などの特徴が書かれていました。

つまり捜査員は、久間氏の車に「ラインがない」という特徴を知った上で「ラインはなかった」という目撃者の調書をまとめていたのです。

■德田弁護士
「この(黄色とオレンジの)ラインがないという問題は、捜査本部からみると、久間さんを犯人に結びつける上で極めて重要な事実だったので、何とかしてこれを引き出そうという、これが捜査官とAさんのやりとりの中で誘導されていったということだと思います。」

そもそも、紺色のワゴン車の目撃証言はどんな意味があったのか。ワゴン車が目撃された場所の下の斜面から、警察はランドセルなどの遺留品を発見し「車と事件」を結びつけました。

しかし、目撃者から遺留品は見えません。そのとき本当にあったのでしょうか。

「これで有罪を出すんですか」

また、ワゴン車が目撃されたのは事件当日の2月20日の午前中でした。警察官が遺留品を発見するのは、2日後です。車の目撃から、遺留品が発見されるまで48時間にもかかわらず、遺留品を捨てたのはワゴン車だと、どう確認したのでしょうか。

■德田弁護士
「それが犯行に使われた車であるっていうことは、全然特定されてない。まして遺留品がその時にあったなんていうことは、まったく特定されていない。」

また、驚くべき証言も明らかになりました。確定判決が誘拐現場とした福岡県飯塚市の三差路付近で、女の子たちを最後に目撃したとされた女性が、当時警察に話したとされる供述調書の内容を否定したのです。

■第2次再審請求での女性の証言(取材より)
「女の子を見たのは事件当日ではない。それを見たという供述調書に強引にさせられた。」

確定判決は、同じころ三差路で目撃された紺色ワゴン車は久間氏のものと認定しました。

■德田弁護士
「この証言通りだということになると何が起こるかというと、誘拐場所がどこだったのかということが特定できなくなる。誘拐された時間も午前8時30分でないということになる。三差路を通った紺色ワゴン車が事件と関係しているかは、全くわからなくなる。」

事件から32年、1度目の再審請求から15年がたちました。

■岩田弁護士
「私は第1審から関わっていまして、全容がだんだん見えてきたという感じがしています。で、かなり追い詰めたというか、これで有罪を出すんですかという気はしています。」

再審は認められるのか否か。福岡地裁の決定は5日、示されます。