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【独自解説】「排水溝に捨てた具材を食べされられた」「『交通費と時間を返せ』と土下座を強要」…深刻化する“カスハラ”、60代以上が約半数 日本カスハラ協会理事が提言「お客様は“神様”から“お互い様”」

2024年6月14日 16:00
【独自解説】「排水溝に捨てた具材を食べされられた」「『交通費と時間を返せ』と土下座を強要」…深刻化する“カスハラ”、60代以上が約半数 日本カスハラ協会理事が提言「お客様は“神様”から“お互い様”」
ラーメン店が「カスハラ」で“閉店”

 行き過ぎた客の行為、カスタマーハラスメント・略して「カスハラ」。その「カスハラ」をめぐり東京都が全国初の防止条例の制定を目指しています。深刻化する「カスハラ」ですが、法律で禁止されている「パワハラ」や「セクハラ」と違って、明確な定義がないのが実情です。皆さんの行動、ひょっとしたら「カスハラ」になってしまうかも…?また「カスハラ」を受けたときの対象法は?日本カスハラ協会・理事の酒井由香氏が徹底解説します。

学もねぇ、知識もねぇ、車を転がすしか知識ねぇんだろ?」タクシーで横行する“カスハラ”「入社3か月以内に退職した人の3分の2が『カスハラ』が理由」

Q.「日本カスハラ協会」というものがあるくらいですから相当社会問題化しているのですね?
(日本カスハラ協会・理事 酒井由香氏)
「社会問題として挙げられてきたのが2018年ぐらいになると思います。サービス業が加盟する労働組合「UAゼンセン」が最初にアンケートを取ったのが2018年だったと思いますので、その辺りから社会問題化というか、顕在化しているというのが正しいかと思います」

 まず、タクシー会社「つばめタクシー」の実例です。運転手は、指示通りに走ったにもかかわらず、客は料金が高すぎるとクレームを言ってきて、「学もねぇ、知識もねぇ、車を転がすしか知識ねぇんだろ?」などと暴言を言ってきたといいます。「つばめタクシー」は、こういう客が現れた場合「継続乗車を断ることができる」「乗車拒否や慰謝料の請求をする可能性もある」としています。つばめ自動車の天野清美社長は「一日平均21~22回客を乗せる中で、1~2組がドライバーから見ると“危ないお客様”。暴言や恐喝的な言動があると心が折れてしまう。入社3か月以内に退職した人の3分の2がカスハラが理由」だと話しています。

(酒井氏)
「狭い空間で、比較的短い時間の中でのコミュニケーションになりますから、その中で理不尽なことが起こってしまうと、本当にドライバーさんが気の毒でしょうがないと思ってしまいます。PTSDになることもあり得ると思います」

 また、あるラーメン店では、2023年にラーメンに100本以上のつまようじやコショウ1瓶分を入れられる被害が相次ぎ、このお店は閉店し、新店舗を立ち上げました。店側は被害届を提出したということです。新店舗を立ち上げることになった「中華そば いち」の瀧江真一社長は、「(電話で)『こんな店潰れちまえ。もう殺すぞ』とか、いろいろなことを言ってきた」と話しています。

「罵倒」や「土下座の強要」だけでなく、殴られ首を絞められたことも…迷惑行為を受けた人の約9割が心身に何らかの不調 改めて考える「カスハラ」の線引き

 様々な「カスハラ」の例です。飲食店で、客に静かにするようにお願いすると、「帰れってこと?金払って来てやってる客だけど」などと“罵倒される”ということがあったといいます。

(酒井氏)
「普通のお客さんはこういうことはしませんよね。お金払っているから何でもやっていいとはならないと思いますので、『節度ある態度を』となります」

 スーパーマーケットでは、鍋の具材を購入した客から返金要求があり、家に伺うと「具材に問題はないか食べてみろ」と強要され、排水溝に捨てられた具材を食べされられたそうです。

(酒井氏)
「このあたりになると、犯罪に近いと思いますので、スーパー側は正しくお断りする必要があると思います。“お客様”を“お客様”として認識するかどうかが重要になってきます。顧客として対応するか、決裂する前提で当たるのかを考えて組織が対応することが重要だと思います」

 さらに、衣料品店では、返品に来た客が「交通費と時間を返せ」と強要し、土下座をさせ、撮影した上にSNSに投稿までしたということです。また、鉄道会社では、駅構内で放尿をしている客に注意をしたところ、顔を殴られ、首を絞められたということです。

(酒井氏)
「厚生労働省などが、企業がどのように従業員を守っていって、どんなガイドラインでカスタマーハラスメントを認識していくかの議論を進めています」

 行き過ぎた「カスハラ」は犯罪です。机を暴力的にたたき、大声で要求する行為は「威力業務妨害」で3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。「土下座をしろ!」と過度な謝罪要求は「強要罪」で3年以下の懲役。「悪評を流すぞ・誠意を見せろ」は「恐喝罪」で10年以下の懲役となります。たとえ店側に不手際があったとしても、これらのことをすると罪に問われます。

厚生労働省によると2022年までの10年間で、精神被害による労災が89人うち自殺や自殺未遂が29人となっています。迷惑行為を受けた人の約9割が心身に何らかの不調をきたしているということです。

Q.精神疾患になる人は多いのですか?
(酒井氏)
「頭痛がするとか、会社に行きたくないなどの細かいものも含めて、就労環境を害するような状況が生まれてきていることが、実例としてたくさん出てきていると思います」

 では、「カスハラ」に“なる”・“ならない”の線引きはどこからでしょうか?

Q.接客中に舌打ちやため息は?
(酒井氏)
「前後の状況にもよりますが、舌打ちやため息が個人攻撃になってしまうとカスタマーハラスメントの可能性が高くなります。その人を攻撃してその人の就労環境が悪くなるという状況が生まれてくることになると思います」

Q.ミスをした店員を罵倒し「上司を出せ」と要求するのは?
(酒井氏)
「これも前後の状況が分かりませんが、例えば、その場に上席がいないことが分かっているにもかかわらず、ずっと『出せ、出るまで帰らないぞ、何時間でも待つから呼んで来い』などという状況になると、客としての対応ができなくなると判断しなければいけなくなる事例かなと思います」

Q.客の10万円の高級バッグに料理をこぼし、10万円を要求された場合は?
(酒井氏)
「この場合、お店の不手際がある程度分かっていますが、10万円の要求の妥当性が重要になってきます。買ってすぐなら10万円の要求も妥当かなと思いますが、古いものだと、買ったとき10万円だから10万円払えというのはおかしい可能性もあります。現場・現物・現実で、妥当なところでの要求かどうかです」

Q.ホテルで上下左右の部屋に客を入れないよう要求された場合は?
(酒井氏)
「これは、2023年夏に、厚生労働省が『改定旅館業法』でだめだと言っている『カスハラ』に当たりますので、宿泊拒否をすることができます。しかし、泊ってから、『隣の部屋の騒音がひどいので部屋を変えてほしい』という要求は大丈夫です」

 「カスハラ」の線引きは、要求内容・要求態度・言動などで、酒井氏は「お客様は“神様”からお客様とは“お互い様”に」なってきているということです。

  厚生労働省が出しているカスタマーハラスメントに当たる行為ですが、・身体的な攻撃(暴行、傷害)・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)・威圧的な言動・土下座の強要・継続的な(繰り返し)執拗な(しつこい)言動・拘束的な行動・差別的な言動・性的な言動・従業員個人への攻撃、要求などとなっています。
 さらに、・商品交換の要求・金銭補償の要求・謝罪の要求(土下座を除く)などは要求の内容によって「カスハラ」に当たるということです。

“カスハラ客”年齢は半数近くが60代が以上 4つのタイプ別「カスハラ」

 そして「カスハラ」には、「自己主張」型「ゆがんだ正義」型「プライド」型「被害意識」型などの4つのタイプがあるそうです。

 サービス業で働く3万3000人に「カスハラ」の経験を調査した結果、直近2年以内に46.8%の人が被害にあったということです。“カスハラ客”の年齢性別は、40代以上が9割を占め60代以上が増加していて約半数となっています。性別では男性が7割を超えています。迷惑行為のきっかけは、不満のはけ口・嫌がらせが26%以上と一番多く、消費者の勘違いも約15%あるということです。

 業種別では、スーパー・ドラッグストアでは60代男性が中心で、女性従業員に対するポイント制度などのトラブルが多く、上司などの謝罪要求が多いということです。インフラ・ホテル・百貨店では、50代男性が中心で、クレームが1時間以上続き、理詰め、揚げ足取りなどが特徴だといいます。要求は現金や土下座などだということです。飲食店や専門店では、女性の割合が多く、男性従業員に対して対面で人格否定や威圧的な態度を取る割合が高く、支払いを拒否することが多いといいます。

Q.一般に男性が多いといいますが、飲食店などは女性が多いのはなぜですか?
(酒井氏)
「自分のプライドを傷つけられたというようなことに対して過度に怒りをぶつけるような状況が生まれているのではないかと思います」

東京都が「カスハラ防止条例」制定へ動き、しかし罰則なしで努力義務の方向性…「行為者に罰則か、対策をしていない企業に罰則かなど議論が必要」

 東京都は「カスハラ防止条例」制定へ動いています。「長時間の拘束」「侮辱発言」「ネットへの掲載」などが想定されています。また、対象は客から店などだけではなく、役所の窓口利用者から職員、地域住民から学校の先生、市民から警察官・消防隊員、国会議員・地方議員から自治体職員なども含まれるということです。しかし、罰則はなしで努力義務の方向だといいます。酒井氏は「行為者に罰則か、対策をしていない企業に罰則かなど議論が必要」としています。

(酒井氏)
「現在、厚生労働省からいろいろな発信がありますが、基本的には『企業が従業員を守ってください』というところで議論が進んでいます」


(「情報ライブミヤネ屋」2024年6月11日放送)