一般人も対象?「テロ等準備罪」をおさらい
犯罪の計画段階でも処罰の対象とする共謀罪の趣旨を盛り込んだテロ等準備罪を新たに設ける組織犯罪処罰法改正案。与野党の攻防の中、法案は衆議院を通過し、参議院で審議が大詰めを迎えている。一般人が捜査や監視の対象になることはあるのか。
――「共謀罪の趣旨を盛り込んだ」とは、どういうことなのか。
犯罪というのは計画、準備、実行というプロセスがある。共謀罪は、2人以上が犯罪を計画しただけで罪に問われる。「話し合っただけで処罰されるのか」と猛批判され、この法案は過去3回、国会に提出されたものの、全て廃案になっていた。
そこで今回、政府が新たに提出したのが「テロ等準備罪」。これは犯罪を計画しただけではなく、準備までしないと処罰されない。政府は「別物だ」としているが、共謀罪の「趣旨」が盛り込まれていると言える。
改めて、「テロ等準備罪」がどういう法律なのか確認すると、「犯罪を目的として集まった組織的犯罪集団が」「2人以上で重大な犯罪を計画し」「メンバーが準備行為を行った」場合、計画に関わった全員を処罰するというものだ。
――テロを未然に防ぐことを目指しているのに、なぜ国会の議論がこんなに紛糾しているのか。
最大のポイントは、「一般人」が、「組織的犯罪集団」との関与が疑われ、「テロ等準備罪」の対象にならないかという点だ。
「組織的犯罪集団」は「テロ集団」や「暴力団」「薬物密売組織」など、犯罪を目的とする集団のことだと、政府は説明している。
ただし、「組織的犯罪集団」かどうか決めるのは警察、捜査当局だ。だから、「都合の悪い人を恣意(しい)的に対象にすることはないのか」「そもそも判断の基準が曖昧だ」と野党が批判している。
特に問題になっているのは、一般人がデモや座り込みなどを行う場合だ。この点については、今月、衆議院法務委員会でこんなやり取りがあった。
民進党・井出庸生議員「デモを計画した人たちが、組織的犯罪集団と認定されるということは、想定されない、絶対ないと。そういうことなのか」
法務省・林眞琴刑事局長「全くないと言えると思います。『組織的犯罪集団』に、そもそも該当しないですよ」
デモの集団は犯罪を目的としているわけではないので、参加者も「テロ等準備罪」の対象にはならないと、政府側は説明している。ただし、「団体の性質が一変した場合には、捜査の対象になる」ともしていて、その判断はやはり警察次第だという批判もある。
政府側は、警察の捜査について、家宅捜索や逮捕といった「強制捜査」の段階では裁判所による令状が必要で、その審査があるため、一般人に影響が及ぶような乱用の恐れはないという。
一方で、問題になっているのは、強制捜査の前段階にあたる「任意捜査」や「調査」で実施される尾行や張り込みなどだ。これは裁判所の審査が必要ないので、こうした監視が広がることが懸念されている。
――監視が広がるということは、電話やメールなどもチェックされるのか。
「テロ等準備罪」に関しては、今の法律上、警察は電話やメールの傍受はできないことになっている。ただし、「将来的には可能になるのではないか」と懸念されている。
■不安の解消を
「テロ対策が必要だ」という考えは、多くの国民が共有している。しかし、与野党の議論は平行線で、「一般人も対象になるのではないか」「捜査機関の恣意的な運用があるのではないか」という不安が解消されていないという声が根強くある。
与党は、時間が来たから採決という姿勢ではなく、丁寧に説明をして国民の十分な理解を得た上で、結論を出してもらえればと思う。