認知症の行方不明者が“過去最多” どう救う?…「靴のGPS」で2240人保護、バス運転手の機転も 声かけのコツは『every.特集』
去年1年間に全国の警察に届けられた認知症の行方不明者の数は、初めて1万9000人を超え、過去最多となっています。誰にでも起こりうる問題で、行方不明者を無事に保護するための様々な取り組みが進められています。私たちにできることを考えます。
神奈川・川崎市に住む小川益宏さん(89)。6年前に行方が分からなくなった妻の和子さんをいまも捜しています。「和子が行方不明になる2週間前の母の日に、子どもたちが集まってくれて撮った写真です」と小川さん。思い出深い1枚を見せてくれました。
認知症を患っていた和子さん。家族の支えを受けながら自宅で生活していましたが、80歳の時に1人で外に出かけた後、行方が分からなくなりました。
小川さん
「コンビニにちょっとお茶を買いに行きたいと言って、多分大丈夫だろうと思ったのが私の誤りでした」
自宅から歩いて5分ほどの距離にあるコンビニ。和子さんは数日前にもこのコンビニに1人で出かけ、帰ってきていたため、心配はしていなかったといいます。
小川さん
「20分たったら帰ってくるはずだと思っていましたから、あれっと思って、私は駆け出してここ(コンビニ)まで来ました。そうしたら(和子さんは)来ていないと言うので」
小川さんはすぐに警察に通報。近所の公園や喫茶店など、和子さんが行きそうな場所はすべて捜したといいます。情報提供を呼びかけるチラシも作りましたが、6年たったいまも、和子さんの行方は分かっていません(情報提供・神奈川県警麻生署044-951-0110)。
「和子はここで生活していたんですね」と、小川さんは行方不明になった当時のままとなっている和子さんの部屋を見せてくれました。夫婦2人で行く旅行を、何よりも楽しんでいました。
小川さん
「和子はきっと私のことは理解できない状態に、もう(行方不明から)6年たつとなっているんじゃないかと思いますが、それでも何とかして捜し出したいという思いでいます。それがいまの私の最大の願いです」
警察庁によると、認知症の行方不明者の数は統計を取り始めてから11年連続で増加しています。
去年、全国の警察に「認知症の行方不明者」として届け出があったのは過去最多となる、のべ1万9039人。このうち9割以上は無事に保護されましたが、去年末の時点で250人が見つかっていません。
専門家は、認知症による行方不明は誰にとっても身近な問題だと指摘します。
認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子研究部長
「行方不明になる6割近くは、まだ認知症の診断がついていなかったり、支援もまだほとんど必要ないくらい軽い段階で行方不明になっています。自分の身内や知り合い、もしかしたら自分自身も(行方不明に)なってもおかしくありません」
では、行方不明になった認知症の人をどのように救えばいいのでしょうか? 各地で取り組みが進められています。
横浜市営バスでは去年、認知症の行方不明者を職員が保護しました。そのきっかけとなったのが、全国の自治体で導入が進む「SOSネットワーク」です。
運用は自治体によって異なりますが、行方が分からなくなった認知症の人を早期に保護するための仕組みで、家族らは認知症の人の名前や住所、体の特徴などの情報を事前に自治体に登録。実際に行方が分からなくなった時に自治体や警察に通報し、捜索を依頼します。
すると交通機関や飲食店などに行方不明者の顔写真やその日の服装などの情報が速やかに共有されます。
横浜市営バスのケースでは、どんな経緯だったのでしょうか。同バスの八木建二さんは「(高齢女性が)住宅街の方に歩いていったという情報を頂きまして」と振り返ります。
去年10月の夜9時すぎ。最終のバスに1人で乗ってきたという高齢の女性がいました。席が空いていたにもかかわらず、座らずに立っていたといいます。女性は終点のバス停で降りましたが、あることに気づいた運転手が、営業所に緊急の連絡を入れました。
八木さん
「グリーンのカーディガンでしたか、だいぶ特徴があることで、(運転手が)『多分そうじゃないか』という…」
SOSネットワークで事前に共有されていた行方不明者の服装が「緑色のカーディガン」だったことをとっさに思い出したという運転手。連絡を受けた営業所の職員は、女性が降りたバス停に急行しました。
周辺の住宅街を捜していたところ1人で歩いていた女性を発見し、無事に保護することができました。
八木さん
「見つけられる、発見に至ることもできるんだなという、こういう取り組みは大事だなと本当に思いました」
行方不明者を早期に発見するための取り組みは他にもあります。
群馬・高崎市で家族と暮らす80代の女性は、認知症を患っています。介護職員は「体動かすの好きだよね」「日課だよね、散歩はね」と話しかけます。
これまで、1人で外に出かけて行方が分からなくなることが複数回あったといいます。それでも、ある靴をはくことで安心して外出ができるようになりました。
「GPSが靴の中に入っていまして」と介護職員は言います。位置情報を確認することができるGPSの端末です。高崎市は、希望する認知症の人の家族などに2015年から無料でGPSの端末を貸し出しています。現在は300人が利用しています。
これまでに、行方不明となったのべ2240人全員を無事に保護しています。
女性の家族は「以前は行方不明になったら会社から戻って捜していた。今は本人も自由に行動ができるし、とても助かっている」と話しています。
どのような仕組みで行方不明になった人を保護しているのでしょうか。高崎市から委託を受けた「暮らし見守り振興センター」に再現してもらいました。
電話が鳴り、職員が「見守りセンターです。いつごろからいなくなりましたか?」と受けます。プライバシーに配慮するため、捜索の依頼を受けた時だけGPSで行方不明者の位置情報を確認。画面に表示されるのは行方不明者の情報だけです。
GPSが示した場所へ、状況に応じて職員や家族、警察が向かい、行方不明者を保護します。GPSを使った見守りセンターの対応は24時間365日。行方不明者の9割が、通報から1時間以内で保護されているということです。
誰にでも起こりうる、認知症による行方不明の問題。永田さんは「まず自分が住む自治体の取り組みを知って、本人や家族の状況に合わせて利用できるものを選択してほしい」と話しています。
桐谷美玲キャスター
「私も祖母が認知症だったので、他人事ではなく、とても身近な問題だなと感じました」
鈴江奈々アナウンサー
「行方不明になる方を減らすために、私たちにもできることがあります。専門家の永田さんは、道端などでじっと動かない方や、雨なのに傘を差していない方など、不自然さを感じたら声をかけてほしいといいます」
「その時注意したいのは、認知症の方は視野が狭くなりがちなので、いきなり声をかけずゆっくり相手の視野に入るように近づいて、驚かせないように、ゆっくりした口調でまずは『こんにちは』など、自然な挨拶から始めてほしいということです」
「そして、相手の様子を見ながら『どちらまで行かれますか?』など声をかけるのがいいとのことです。家族などの連絡先が分かればそちらに連絡し、もし分からない場合は迷わず警察に110番通報してほしい、ということです」
鈴江アナウンサー
「最近では、連絡先などを書くことができ、『私の代わりに連絡をお願いします』などと記されたカードもあります。認知症の方が出かける前に、家族がこうしたカードを持ってもらうようにするのも対策の1つになります」
桐谷キャスター
「ただ、家族だけではどうしようもできないことも出てくると思います。地域全体、みんなで見守って助け合える環境がありがたいですし、そういう社会であってほしいなと思います」
鈴江アナウンサー
「1人では声をかける勇気がないという方もいると思います。駅員さんや周囲の方に協力を仰いで連携することで、解決する場合もあります。行方不明になる方を少しでも減らすために、普段から周りを気にしてもらえたらと思います」
(10月2日『news every.』より)