【解説】小中高生の自殺者数過去最多 SNS・少子化・地域のつながりの希薄化…大人が作った決まりが生きづらさに?
29日に厚生労働省が発表した去年の自殺者数(暫定値)は2万268人と統計開始以来2番目に少ない一方で、小・中・高校生は527人と過去最多に。増加傾向にあるこどもの自殺、今のこどもたちをめぐる環境や傾向などを取材しました。
厚生労働省が発表した暫定値では、去年、自殺した人は2万268人で、2023年より1569人減り、1978年の統計開始以降過去2番目に少ない状況です。女性は6505人と2年連続の減少、男性も1万3763人と3年ぶりに減りました。一方、小・中・高校生の自殺者は、2023年より14人増えて527人で、小・中・高校生の項目ができた1980年以降過去最多でした。
全年齢でみると、2023年と比べ、進路や友達との関係についての悩みなどの学校問題が理由の自殺が増加したほか、2022年から調査項目に追加されたSNS・インターネット上のトラブルを理由とした自殺は過去最多の42件でした。
■止まらないこどもの自殺増加 理由分からない状況
小・中・高校生の自殺者数は増加傾向にあり、2022年は514人で過去2番目、2023年は513人で過去3番目です。こどもの場合、遺書が残されていないなど要因分析が難しく、こども家庭庁は「分析をしているが、これというような理由については分からない」としています。
自殺対策に取り組むNPO法人ライフリンクは、悩みを抱える人のためのWebサイト「かくれてしまえばいいのです」を運営していて、清水康之代表は、サイトに寄せられた声などから最近の傾向を次のように分析します。
「『学校にも、家にも、どこにも居場所がない』『ここにいていいと思える場所がない』など、安心できる場や関係性を持つことができていないこどもや、『恵まれているのにこんな気持ちになってごめんなさい』といった気持ちを吐露するこどももいる。」「『生まれてきたくなかった』『自身のキャラに縛られていて家族や友人に弱い自分をさらけだせない』『何か決定的な原因があるわけではないのに、なんとなく死にたいと思ってしまう』といった声も多く、ひとりで苦しんでいるこどもたちが多いように感じる。」
また、悩みを抱えるこどもたち(特に中高生など)が思いを吐き出す場である「gedokun」などをネット空間で運営するNPO法人「第3の家族」の奥村春香理事長も、悩みを抱えるこどもの傾向について、こう話します。「本当に学校とかでは外から見たら、いわゆる普通の子みたいに見える子たちが多い。全然、別に何かすごく際立った特徴とかがあるわけでもない。隠れて家で傷ついているみたいな子たちが多いなと思いますね」
■フォロワーの数=人生の幸せ度? SNSの影響
「gedokun」の投稿などから、現在25歳の奥村理事長が懸念するのは、SNSやインターネットによる影響です。リアルでは言えない悩みや思いを共有できるのはネット空間のいいところと言う一方で、SNSなどの情報は、こどもたちが扱いきれるものではないのでは、と指摘します。
「例えば学歴ピラミッドとか、シンデレラ体重というモデル体重があったりするんですけど、(大人であれば「これはモデルさんの体重だよね」と分かるが)そういうのを本当にすごく信じてしまって、もうそれじゃなきゃ駄目なんだってなってしまうこともある」
「大人だったらSNSフォロワーの数と友達の数とその人生の幸せ度が全部イコールじゃないと分かるかもしれないけど、何かその辺が扱いきれないような量で。それはだんだん成長していく過程で分かるものなので、今のSNSはちょっと危険な空間だなと思います」
また自傷行為について触れる機会が以前より増えているのでは、とも指摘。「悩んでいる時にSNS上で仲良くなった子とかがSNSで自傷行為の写真とかをあげていて、こういうふうにするんだ、みたいなことが分かる場合もある」そして、今までは自傷行為を隠れてする子が多く、そうした行為の詳細を知ることは少なかったと感じていると言いますが、「今は(SNSの)一番手前側でその(自傷行為の)情報が出てきてしまうので、学校もいい場所じゃないし、もう居場所ないから自傷行為しようかなみたいなことが多い。(居場所が)家、学校、第3位が自傷行為みたいになっている感覚はありますね。」
またSNS以外にも…。「今のティーン向けの漫画とか曲とかって結構そういう表現が出てくるので、知ってしまうところがありますね」
そして最近のこどもたちの声から感じているのが、手に届く範囲にいる身近な人との深いつながりの減少だといいます。
「公園も遊ぶ場所が減ってきているので、そうなるとオンラインで遊ぶしかないなどで学校の友達ができにくくなっている子もいたり、“推し”とかが多様化しすぎて趣味がかぶらないから、学校の友達はそれなりの関係で、ネットの友達と深く付き合っていたりとか」
「コロナ禍の影響がまだ残っている学校とかだと、放課後が終わったら早く帰れとか。あとは部活とかが最近地域で合併していたりするので、地域では友達ができるかもしれないけど、学校に戻った時に同じ部活の友達がいないとか」
「本当に小さいことの積み重ねという感覚はするのですけど、でも昔はあった“友達がいたから生きていられたんだ”みたいな雰囲気はちょっと減っている。どちらかというと“推しがいるから生きていられる”に変わってる感じはありますね」
■手の届く範囲を大切に
「おじさんがただ挨拶しただけなのに不審者として通報されるかもしれない世の中。最近だと教育虐待とかも増えてますけど、お母さんたちは認めてくれないし厳しいかもしれないけど、隣の家のおじさんが『本当頭いいね』と言ってくれたらそれだけで救われる何かもあると思うんですよ。それが今はなくなっていて、親子も孤独だし、なんかこどもにとっての価値観みたいなものも親とかの狭い価値観になりやすいのかなって思いますね」
奥村さんはまずは地域のこどもたちに挨拶をするなど、手の届く範囲の人との関わりを大切にすることが重要だと考えているといいます。
■大人が作った決まりやサービスがこどもの生きづらさに
そして、こどもたちの生きづらさについては…
「習い事とか塾も増えて、小学3年生からいっぱいやる必要あったんだっけとか。学校側は決まりで学生の生きやすさを、何か奪っていないかとか、本当に小さいことの積み重ねなのかなって思いますね」
「私たちから見て感じるのは、大人たちの仕事的にやりやすいような社会とか、大人たちに都合のよい社会の中で、こどもたちが結構苦しめられてるのかなって思うところはあって、例えば先生も、ハラスメントとかがあるので、生徒に介入したら逆に何か言われちゃうかもしれないみたいで、生徒と先生の距離ができたりだとか。公園も遊ぶ場所が減ってとか、受験(の低年齢化)もそうですけど、大人たちが作った決まりとかサービスの中で、結構生きにくさみたいなのが生まれているのかなっていうのを感じますね」
■求められる早急な国の対策
暫定値時点で過去最多となった小・中・高校生の自殺者数。この結果について、こども家庭庁支援局の吉住局長は「『こどもの自殺対策緊急強化プラン』を作成したこども家庭庁としても、大変重く受け止めている。プランには、こどもの自殺対策のためのあらゆる施策が盛り込まれているが、そうした施策が実際の現場で実効性のあるものとして実施されているのかどうか、こども家庭庁を含め、関係各省庁において再点検をしていくことが急務だ」と話しました。
関係者によりますと、政府は今回の結果を踏まえ、今月31日に関係省庁連絡会議を開催し、こどもの自殺対策について対応を議論するということです。