絵本作家ヨシタケシンスケさんから つらい気持ちを抱えた人たちへ
デビュー作「りんごかもしれない」がベストセラーとなった人気絵本作家のヨシタケシンスケさんが、NPO法人とともにこどもたちの悩みに寄り添うためのサイトを半年前に作りました。夏休みが終わり、不登校や自殺が増えるこの時期、自身も生きづらさを抱えるヨシタケさんにサイトに込めた思いを聞きました。
自殺予防対策に取り組むNPO法人ライフリンクと絵本作家ヨシタケシンスケさんは、こどもたちの悩みに寄り添い、自殺などを防ごうと、webサイト「かくれてしまえばいいのです」を今年3月にリリースし、今月には1000万回PVを超えました。協力を依頼された時、ヨシタケさんは「物事を楽しもうとしている人たちじゃない人に何が言えるのか。
何か文字を読んだり絵を読み込んだりできる体力が残っていない人たちに何ができるのか、すごく難しい仕事だなと思った」といいます。
しかしヨシタケさんは「僕自身も生きているのがしんどくなっちゃう時間帯がすごく多かった時期」で、つらい気持ちを抱える当事者だからこそできるのではと思い、引き受けたと話しました。
■人に助けを求めることは難しい
ヨシタケさんは、だめになる理由が何もないのに、気持ちが沈んでしまう時があるといいます。
「自分でもよくわからないから人にもうまく説明できないし、周りの人もどう解決してよいかわからないっていう、自分はそういうタイプのしんどさなんですよね」
「僕が(相談窓口に)電話することでもっとつらい人たちがつながらなくなったら申し訳ないとか、自分も傷つきたくみたいなところで助けて欲しいけど助けて下さいっていえない」そこで感じたのはウェブサイトならではの特徴。
「無料で24時間いつでも入れて出ていけるところが、すごく恐がりの人に向いているというか。試しに入ってみて、だめだったらもう来なきゃいいだろうし、居心地よければいてもいいだろうし」
「人に助けを求めるのってこわいよねとか難しいよねということを共有できるだけでも、ずいぶん違うんじゃないかなって」
■つらいピークを迎える前の人にも...
「(つらさの)ピークを迎える前の”予備軍”の人たちに対して『うまく説明できない、自分も理由がわかんないけどつらい』ということをせめて共有できる場所、僕自身がそういう場所があればすごく助かるという思いがありました」
つらいピークを迎える前の人にとっての居場所というのも大きなテーマの1つになったといいます。
■この世でもあの世でもない”その世”に隠れてしまえば
「生きているのがつらいってなったときに、この世にいることをやめてしまう人たちに対して、あの世に行ってしまうと戻って来れないので、この世がつらいんだったら、あの世じゃない場所に行くことだってできるよねって」
「”その世”に隠れてしまって、気持ちが元に戻ったらこの世に戻ってくればいいんじゃないですか、という提案ができるといいなと」
このサイトで、”かくれが”となっているのは大きな木。外から見ると人がいるのが分からない場所として、ツリーハウスをテーマにしたといいます。
その中は、気持ちをやりすごす場所と気持ちに向き合う2つのエリアがあり、不思議な生き物がつらい気持ちを食べてくれる部屋やゲームができる部屋、相談が出来る部屋など、合計9つの部屋で過ごすことができます。
そしてこの”かくれが”の管理人を務めるのが、むかんけいばあちゃんです。
「自分の大事な人であればあるほど、理由もなくつらい時があるんだとか打ち明けるのってすごい勇気がいる」
「だから無関係な人がいてほしいというか、あなたの本当のことを言っても、あなたの大事な人にはばれないから大丈夫、と安心して欲しかった」
■「生きなきゃだめ」が一番困る ばあちゃんの小話
「ばあちゃんの部屋」に入ると読めるのが、17個の小話です。
「自分だったら、生きなきゃだめだみたいなこと言われるのが一番困る。だから、そういう言葉を使わずに、余裕があったら見てみてね、みたいな形で、お話がたくさん用意されている」
「(自分も)ずっと長いこと強い不安と付き合いながら生きてきた中で、自分なりの解決方法みたいなのがたまってきたので、それを小話の中にたくさん入れたつもり」その中でもヨシタケさんの印象に残っているのが...。
「未来のことなんかどうでもいいんだよっていうのが出てくるんですね。生きていたくない人たちに『この先に輝ける未来があるんだから、生きてみようじゃないか』みたいなことを言いたくなるんですけど、そういうことを考えれば考えるほどつらくなっちゃってる」
「そういう時に『もういいんだよ未来のことなんか、ただ、この今つらい2~3時間をとにかく何かできる、紛らわせれば、それだけでいいんだよ』って」自分が助かる言葉を紡いでいったといいます。
■伝わったばあちゃんに込めた思い
このばあちゃんにヨシタケさんは「昔相当つらい時期があった」という設定を作っていました。
「つらさってなかなか消えないのよねっていう共感だけはできるから、共感をしていきたいと(思って)隠れ家を運営しているイメージ」
「生きるのがしんどくて何度も相談に来ていた若い子が『このばあちゃんは過去に死にたくなったことがあるんだと思う』と感想をくれた」
「『そうなんだよ!』って。みんな自分がつらかったことがあっての今なんだよって言うのがその子に伝わったのがうれしかった」
■笑顔を描かなくても幸せは表現できる
ヨシタケさんの工夫は他にも。実はこのサイト、笑っている人はほとんどでてきません。
「何か親子でニコニコみたいな絵を見たときに子育てを楽しめていない人たちは傷つくんですよ。この絵の人たちはこんなに楽しそうにしているのに、自分はなんで笑顔になれないんだろうかっていう。その時に疲れ切った顔で赤ちゃんを抱いている絵をみたら『だよね』ってなると思うんですよね」
「笑顔を描かなくても幸せが表現できるはずだし、こどもに対してむすっとした顔をしてるけど、この子のことを大事に思っていると表現できるはず」
「つらい時になかなか笑顔にならないし、でも逆に言えばむすっとしているけど、心の中でほっとしている時だってあるだろうし、涙が止まらないけど、何かちょっと希望のようなものが心に芽生えていることだってあるわけですよね」
「必ずしも笑顔だからこう思ってるとか、そこまで単純なものではないわけで。そういうところも、むすっとした顔に込めたい」
■サイト作りに向き合う中で手に入れた1つの勇気
ヨシタケさんが作業を進める中で感じたことがあったといいます。
「これを作っている本人が助けを求めることを、一つのゴールにすべきなんじゃないかなって思ってきたところがあって。
3月、サイトがオープンした日に初めて心療内科みたいなところの予約をとったんです」
「この仕事に向き合うことで、僕もそういう一つの勇気を手に入れたというか」
「自分の力で人に相談するっていうのは僕は50年間できませんでしたけど、できたんですよ。この仕事に僕自身も救われた部分は大きい」
■夏休みが明けるこどもたちへ
ヨシタケさんがつらい気持ちを抱えている子どもたちに伝えたいこと。
「死にたい気持ちになっちゃった自分を責める必要はないんですよ」
「いろんな理由でしんどい気持ちでいて、それがうまく説明できないからこそ余計苦しい人もいると思うんですけど、理由がわからなくても、つらいながらも楽しい時もあったりして、自分が知らない状態がたくさんあることは知っていてほしい。いま理解できなくても、このあとやってくることは楽しみにしていてほしい」
●生きるのがしんどいと感じている子ども・若者向けのWeb空間「かくれてしまえばいいのです」